ウルトラ・ファストファッション規制をめぐる複雑な論点−SHEINのパリ出店をめぐって
2025.11.25
SHEIN(シーイン) パリ常設店オープンへの強い反発
中国発のネット通販大手のSHEIN(シーイン)1 は、11月5日、パリの流行の発信地マレ地区にある老舗百貨店BHVに、初の常設店舗をオープンさせた2。シーインは、近年環境負荷や労働環境との関連で批判されるファストファッションのなかでも、特に懸念される傾向の強い「ウルトラ・ファストファッション」として、これまでも批判や規制の対象となってきた。
反対派議員、人権団体や環境団体、BHVの他店舗や業界団体、パリ市長に至るまで、実店舗への強い抗議運動が広がる一方で、流行をとりいれた安価で豊富な商品を目当てに、開店前には購入希望者の長蛇の列ができており、周辺は特別警備がなされるなど喧騒の中でのオープンとなった。不適切な商品を販売しているとしてシーイン運営の販売サイトへの規制や欧州委員会への制裁の要請など、実店舗の開店をきっかけとした激しい反応が続いている。
ファストファッションとグローバル課題
アパレル業界、とりわけファストファッションについては、環境負荷や、2013年のバングラディシュでのラナプラザビル崩落事故に象徴される劣悪な労働条件などが問題視されて久しい。CO2排出、水汚染、大量廃棄、マイクロプラスチック、労働環境、知的財産権の侵害、有害物質など、サプライチェーンまで含めて企業が守るべき環境保護や人権義務を遵守していないという批判も多い。「企業の社会的責任」や「人権デューデリジェンス」の観点からも改善が求められ、対応しない企業や商品への厳しい目が消費者からも向けられるようになった。この点においてシーイン出店への批判的反応は、グローバルな規範の定着の表れとして捉えることができる。
フランスの厳しい規制と国内事情
一方で、環境や人権といったグローバル課題への高い規範意識からだけでは、フランスのシーイン(あるいは同じく中国系のTEMU)を狙い撃ちにしたかのような厳しい姿勢は説明しにくい。例えば、シーインは、オンラインサイトでの小児性愛グッズや武器、違法薬物などの販売を指摘され、フランス政府の捜査をうけてサイトでの扱いを停止させた。さらにフランス政府は、シーインが違法コンテンツ対策を義務づけるEUの「デジタルサービス法(DSA)」に違反したとして欧州委員会に通告し、シーイン運営サイトの停止手続きや空港での同社の全小包の検査などの対策を次々とうち出している3。
そもそもフランスでは、世界一厳しいともいえる規制をファストファッション業界に課している。2022年1月にアパレル産業への「衣類廃棄禁止法」が施行されており、企業は売れ残った新品の洋服の焼却や廃棄が禁止されている。これはEU加盟国共通の「拡大生産者責任法」(EPR法)に基づくものであるが、フランス独自に衣料の在庫廃棄の禁止を加えて強化している。さらに環境負荷履歴の表示義務と課徴金導入に加え、2025年夏にはウルトラ・ファストファッションを対象とする規制法案が成立した。この法案は、年間1000種類以上の商品発売、電子商取引のみの販売でフランス国内に実店舗がない4、極端な低価格・短い納期、などを要件として「ウルトラ・ファストファッション」を分類し、対象となった企業や商品の広告を全面禁止し、違反者には罰金を科す厳しい条項を追加した5。
このようなファストファッションへの厳しい規制やシーイン出店への強い拒絶の背景には、フランスのファッション産業に対する強い思い入れや文化的動機がある。反対運動のなかでも「フランスの歴史ある百貨店が、フランスやフランスの繊維産業が守ってきた文化的な価値観に反する行動をした」との批判が多くみられた。例えば人気の仏ブランド「アニエスベー」は、シーイン出店への強い抗議を表明しBHVから退店したほか、「A.P.C.」など同様の対応をするブランドも複数にのぼった。
ウルトラ・ファストファッション問題をめぐる複雑な論点
シーインへの批判や規制は、大量生産・大量廃棄という環境や人権のグローバル課題に対する、国際社会としての規範的反応と捉えることができる。一方で、今回のフランスでの反応をみると、そこにあるのは中国とフランス、あるいはEUとの貿易問題であり、欧州市場を席巻する中国製品から自国を守る保護主義的な動きともいえる。さらには米中の二大貿易大国が争う現下の国際構造のなかで、またトランプ関税ゆえにアメリカ市場から欧州市場へと輸出先の転換を目論む中国への欧州としての経済安全保障を意識した牽制でもある。
ファッションを自国の文化的アイデンティティであり、価値の表明でもあるとするフランスにとっては、それを脅かすウルトラ・ファストファッションの急拡大はナショナリズムを刺激する文化や価値の問題でもある。過去最低の支持率のもと予算案を巡って混迷し、右派ポピュリストが勢力を増すフランスにあって、シーイン出店への反対運動やこれに合わせた素速く激しい政策対応が与野党一致してとられていることが、愛国的な対応としてフランス国民に評価されているのかどうかも興味深い点である。
シーインの事例は、政治、経済、社会、文化に関わる問題で、そこにはグローバルな規範の形成や適用と、自国の経済利益の追求や自国文化への愛着が錯綜している。多領域に問題が関連し、複雑化する今日の国際関係を読み解く難しさを再認識させられる。
- シーインは2008年に中国で創設され、現在はシンガポールに拠点を置くオンライン小売り大手で、中国製の衣料やアクセサリーを低価格で豊富に揃えて世界各地で急拡大した。オンライン販売が基本で、ポップアップではない常設の販売店舗はパリ店が世界初となる。今後フランス国内にさらに5店舗を開店する計画があるとされる。
- "L'ouverture du magasin Shein parisien met le bazar au BHV, entre cohue, déception et manifs d'opposants", Le Monde, le 6 novembre, 2025.
- EUは150ユーロ以下の少額小包への関税免除措置の廃止を閣僚理事会で決定しており、2026年の実施を目指している。EUに輸入された少額小包のおよそ9割が中国からの発送だとされ、中国からのウルトラファストファッション流入対策の効果も期待されている。"Les Européens souhaitent que les colis importés d'une valeur de moins de 150 euros ne soient plus exonérés de droits de douane", Le Monde, le 13 novembre, 2025.
- 今回パリでの初の実店舗開店は、このウルトラに該当する要件を回避する目的もあったとされる。
- 同法では、シーインと同じく中国のTEMUが対象となった一方で、ZARA、H&M、ユニクロは地域経済や雇用に貢献している「クラシック・ファストファッション」として区別され、規制の対象外であった。"French Senate backs law to curb ultra fast-fashion",Reuters, June 11, 2025.

正躰 朝香 教授
国際関係論

