ガザの再生に向けて

2025.11.17

トランプ大統領のガザ和平提案の展開

2025年10月のトランプ大統領による20項目のガザ和平提案は、イスラエルやハマスの動向に大きな変化をもたらしている。ここでは、この係争的な紛争への取り組みがどのような問題をかかえているかの注目点に言及しておきたい。

直近の動きとしては、10月9日、イスラエルとハマスが「第1段階」の停戦と人質解放に合意。この合意は米国が提案し、カタール、エジプト、トルコが仲介した。ハマスによる48人の人質(うち20人は死亡)の解放に伴ってイスラエル軍のガザ撤退が始まった。イスラエルによる「テロリストの攻撃への対応」のための攻撃は40人余の死者を出したが、かろうじてイスラエル、ハマス双方はこのプロセス維持の姿勢を示した。

しかし、紛争当事者に目を向けると、ガザをめぐる駆け引きではどちらかといえば選択肢が限られるハマスよりイスラエルが主導権を握っている。イスラエルは容易に、ハマス側の不備をついて、強硬策に転じる可能性がある。したがって和平のプロセスは入口のところで停滞する可能性がある。また幸運にして初期の不安定な状況を乗り切っても、ハマスの武装解除、ガザ統治の枠組み、イスラエル軍の完全撤退など、根本的な問題課題は山積している。

国際的文脈から

今後の展開に関しては国際的局面とローカルな局面から考える必要がある。事態の収拾に向けては米国の関与が大きく影響する。すなわちトランプ政権及びその後の米国の関与の程度や質が問題となる。もちろん一般的には国際紛争の解決には国連やEUだけでなく多様なアクターやレジームの関与が考えられるが、冷戦以降の中東の安定に関しては、米国の関与が第一義的に重要である。なぜなら冷戦後の中東に関しては、50万余の兵力を投入した米国の直接的軍事介入である湾岸戦争およびそれと連動した中東和平プロセスを起点として、現地の情勢と米国の関与が連鎖的に展開し中東情勢に影響しているからだ。もう一つはイスラエルと米国の特異な関係が理由である。

冷戦後に米国の関与した中東の紛争、すなわち湾岸戦争、イラク戦争 シリア内戦、ガザ紛争を比較すると、それぞれに米国の関与の理由や質は変化しており、その変化は多分に、直近の紛争への関与の結果が反映されていることが分かる。湾岸危機の対応への「反省」が、強引とも映るイラク戦争につながり、その結果生じたさまざまな困難がシリア内戦における米国の消極的対応を生み、同時期のイエメン内戦における間接的関与となったと見ることができる。このような文脈もトランプ政権の今後の中東対応を考えるうえで参考になるだろう。

ローカルな局面から

以上のような国際的な枠組みが今後のガザの和平プロセス継続の大前提となるが、ローカルな局面、すなわち戦後の安定や根本的解決に向けての社会の再構築の問題も重要である。これに関連して注目すべきニュースがある。10月19日ガザにおいてこれまで主導権を握っていたハマスと対立する武装グループの対立が高じて、ハマスの治安部隊がパレスチナ人の対抗グループを攻撃して27人の死者(8人のハマス側の犠牲を含む)を出したのである。

ガザの統治においてはハマスが主導権を握ってきたが、米国の方針ではハマスの武装解除や今後の活動の停止を進め、ハマスの影響力を排除することが前提となっている。良くも悪くもガザの統治を力で維持してきたハマスが排除されると力の空白が生じる。パレスチナ自治政府(ガザ+ヨルダン川西岸)レベルでは、ファタハが実効的に影響力を持っているが、短期的にガザでもファタハの影響力が及ぶことは考えられない。そうなると、何らかの国際的管理のもとに暫定的統治機構が立ち上がり政治的には空白状態が続くことになり、破壊されたガザのコミュニティの中ではイデオロギーとは別の血縁集団(有力一族)や宗派集団への依存度が高まり、特に住民レベルでのその影響力が前景化する可能性がある。復興の中での統治には、このような社会的分断への対応も課題になる。

ガザの和平プロセスが順調に進展し次の段階に達するには、米国を中心とした暫定自治機構が住民の意向やローカルな文脈をくみ取ったきめ細かい対応をすることが求められるが、短期的には米国の関与の程度とネタニヤフ政権のガザ問題への対応が事態の進展を左右することになるだろう。

北澤 義之教授
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中東地域研究・国際関係論(ナショナリズム)