構造革命に邁進する第二次トランプ政権

2025.8.22

米国で第二次トランプ政権が発足してから、7ヶ月が経過した。トランプ大統領は、就任直後から政治・外交・経済・社会・文化など、あらゆる面において前例のない規模で数多くの施策を展開している。特徴的なのは、連邦議会の承認が必要とされる通常の立法措置よりも、「国家の非常事態」を理由とした異例ともいうべき数の「大統領令」への署名によって、多くの政策が実行に移されていることである。

ここでは全てを扱うことはできないが、現時点で看取可能な、第二次トランプ政権の政策に見られる顕著な特徴について、論点を絞り検証してみたい。第二次トランプ政権の政策における「通奏低音」というべき側面に光をあてる試みである。

1.「脱価値」のディールと「主権主義」

トランプ政権が進める「脱価値」の政策は、内政・外交の両面で散見される。「正統性」・「道義」・「倫理」よりも「ビジネス」・「損得勘定」を重視する傾向、「利他主義」よりも「利己主義」(米国第一主義)を優先する、その程度が近年の米国歴代政権の中でも際立っている印象を受ける。また、トランプ政権の対外関与の前提には「主権主義」の原則がある。米国の歴史学者ジェニファー・ミッテルシュタットは、トランプ大統領を「主権主義者」と規定し、1919年〜1920年の国際連盟加盟論争で米国の連盟加盟に反対した「非妥協派」(Irreconcilables)にその起源を辿っている。(1) 国際機関への関与は、米国の主権の侵害を招くとし、国際機関への関与低下を進めている。「脱価値」をベースにした「単独行動主義」や「自国第一主義」は、米国がこれまでに築いた「ソフト・パワー」を著しく毀損しかねず、憂慮される。(2)

2.「大国間政治」への執着

トランプ政権は、大国間政治を好み、力の政治を信奉するとともに、「弱肉強食の国際政治」を黙認する政策を展開する。第一次世界大戦後に創設された「国際連盟」は、大国・小国を問わず加盟国を公平に扱うという理念のもと、「総会」での全会一致を原則としたものの、大国の非加盟や離脱に伴う機能不全に陥り行き詰まった。第二次世界大戦期の米国大統領フランクリン・D・ローズヴェルトは、セオドア・ローズヴェルト大統領(任期:1901-1909)の「権力政治外交」とウッドロー・ウィルソン大統領(任期:1913-1921)の「理想主義外交」のハイブリッドを標榜した。そのため、第二次世界大戦後の「国際連合」は、「常任理事国」に強い権限を付与し、その責任ある政策対応に信頼を置く前提で、国際紛争の解決にあたる次善策を採用した。しかし、ロシアがウクライナを侵略し常任理事国としての責任を放棄したことに加え、同じく常任理事国の米国が大国中心の政治に傾斜するなかで、国際秩序は大きく揺らいでいる。

3.イデオロギーとしての「反リベラル」・「反エスタブリッシュメント」

トランプ政権は、重要な支持基盤であるいわゆるMAGA派の主張に常に注意を払ってきた。MAGA派は、家族や宗教について伝統的・保守的な価値観を守り、厳格な移民政策や保護貿易主義を追求する米国第一主義の信奉者とされる。「反リベラル」・「反エスタブリッシュメント」は、中核的なイデオロギーとして位置づけられている。(3) たしかにトランプ政権は、対外関係とは異なり、内政においては経済面での「弱肉強食」は許容せず、MAGA派の救済を公約に掲げる。しかし、大型減税・歳出法案(いわゆる「大きくて美しい法案」)は富裕層を優遇する一方、関税収入による歳入を考慮に入れたとしても、長期的には財政赤字の拡大を招くことが懸念されている。とりわけ、メディケイド(低所得者向け医療保険制度)加入要件の厳格化や食料品購入支援(フードスタンプ制度)の給付削減は、低所得者層を直撃するものとみられ、矛盾を内包した政策とならないか注目されている。直近では、「エプスタイン問題」をめぐる陰謀論によって揺らいだMAGA派の再結束にも注意を払っている。


トランプ政権の政策運営については、「政策実行面でのスピード感」や「ワシントン政治からの脱却」、「経済に敏感な政策運営」といった点など、良くも悪くも「有言実行」という意味では評価できる面もあろう。ただ、世界に冠たるはずの米国が、同政権のもとで国内・国際を問わず、既成の組織やシステムを否定・破壊もしくはそこから離脱することが及ぼす悪影響は、計り知れない。初代大統領ジョージ・ワシントンやエイブラハム・リンカーン大統領が何よりも危惧したことは、米国内政における党派対立や分断であった。(4) 有権者である米国民には、自国のあるべき姿や世界の行く末について真剣に議論を重ね、来年の中間選挙を通じて慎重な判断を下していただくことを祈りたい。

国際関係に関心を持つ若い皆さんには、現在われわれが目の当たりにしている、米国の著しい変化とその国際社会に及ぼす影響について、ぜひとも関心を持っていただきたい。同時に、われわれ日本は、唯一の「同盟国」である米国に、どのような具体的な提案や協力ができるか、「構想」や「知恵」を編み出す国であらねばならない。これまでのように、米国の健全な対外関与を期待できなくなっている現在、日本は法に基づく支配・民主主義・自由貿易の担い手として、同志国と手を携えつつ、これまで以上に積極性をもって重要な役割を果たさなければならないといえよう。


  1. Jennifer Mittelstadt, "Why Does Trump Threaten America's Allies? Hint: It Starts in 1919," The New York Times, February 2, 2025.
  2. Robert O. Keohane and Joseph S. Nye, Jr., "The End of the Long American Century: Trump and the Sources of U.S. Power," Foreign Affairs Vol. 104 Issue 4 (July/August 2025), 68-79.
  3. Michael Kimmage, "The World Trump Wants: American Power in the New Age of Nationalism," Foreign Affairs Vol. 104 Issue 2 (March/April 2025), 8-21.
  4. 拙稿「アメリカ外交における理念と力」(東郷和彦他編『日本初の「世界」思想―哲学╱公共╱外交』藤原書店, 2017年), 341-357頁。

高原 秀介 教授
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アメリカ外交史、日米関係史、アメリカ=東アジア関係史