2025(令和7)年度 過去の研究会詳細

2025年(令和7)年度 第6回研究会

日時 1月28日(水)
14:00~16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所会議室

発表者及びテーマ

北上 光志(ことばの科学研究センター員・外国語学部教授)
ロシア語副動詞主体の揺らぎ—

形の上ではロシア語副動詞(deeprichastie)構文は英語のing を用いた分詞(participle)構文に似ているが、ロシア語規範文法では「副動詞構文の副動詞主体は本動詞主体と一致しなければならない」という非常に強い制約がある。しかし、実際には副動詞主体と本動詞主体との関係が微妙に揺れている。この点について従来の研究は積極的なアプローチを行っていない。本発表は19 世紀から20 世紀にかけての文学作品で用いられている1589 例の副動詞構文における副動詞主体と本動詞主体の関係を次の三点から分析する:1)副動詞主体の意味的広がり、2)副動詞主体の格表示と語順、3)副動詞構文における譲渡不可能性。これらの分析を通してロシア語副動詞主体の揺らぎには話し手の主観性が大きく影響していることも言及する。

加野 まきみ(ことばの科学研究センター員・文化学部教授)
英語辞書における日本語からの借用語—名詞の複数形記述をめぐって—

世界最大の英語辞書 Oxford English Dictionary(OED)には,語源が日本語であると明記されている語が約600 語収録されており,その多くは名詞である。これらの中には,標準的な複数形語尾 -s をとらず,単複同形や複数扱いとして記述される語も少なくない。先行研究では,日本語由来名詞が英語の複数形体系に与える影響が指摘されている。本発表では,これらの語の使用実態をコーパスに基づいて調査し,OED(オンライン版,第三版への改訂が進行中)における記述更新の可能性を検討するとともに,2000 年以降に追加された新たな借用語の記述との比較を行う。

2025年(令和7)年度 第5回研究会

日時 12月24日(水)
14:00~16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所会議室

発表者及びテーマ

内田 健一(外国語学部准教授)
鳥の言葉がわかる詩人パスコリ—イタリア近代詩における音象徴—

イタリアの詩人ジョヴァンニ・パスコリ(1855-1912)は、当時人気を二分していた詩人ダンヌンツィオが彼に捧げた詩『暇乞い』(1903)の中で、「鳥の言葉がわかる者」と呼ばれる。発表者はこの二大詩人について、これまで「子供」や「オデュッセウス」といったテーマで論じてきたが、今回は「鳥」を通して比較する。パスコリの詩において、鳥の鳴き声の描写に用いられるオノマトペと、意味のある語句とは、その音の類似性によって浸透し合う。ダンヌンツィオの詩においても同様の傾向が見られる。そこで研究会では、音象徴によって表現される詩的な世界認識と、その意義を検討する。

森 博達(ことばの科学研究センター員・京都産業大学名誉教授)
「魏志倭人伝」と倭人語

「魏志倭人伝」は弥生時代の倭人社会を知るための卓絶した史料である。対象となる時代背景や史料の性格を知るとともに、これを中国語学の立場から読解する。 発表ではまず、従来の誤読を正すとともに、撰述の方法や意図を明らかにする。つぎに「邪馬臺」「卑狗」「卑弥呼」など55の音訳語を分析して、音韻・アクセントの実態に迫りたい。これらの音訳語は創始された時期に新旧があり、資料の複層性も明らかになる。上代日本語との繋がりや変遷にも目を向けたい。

2025年(令和7)年度 第3回 シンポジウム

日時 2025(令和7)年11月15日(土)
13:00~17:00
場所 京都産業大学図書館ナレッジコモンズ

発表者及びテーマ

前半の部

13:00 開会の挨拶

13:05~13:30 「書はことばぞ -仏教漢文から観た記紀の交渉-」
森 博達(研究センター員)

13:30~13:55 「ノースカロライナ大学アックランド美術館所蔵『夢香洲観花絵巻』をめぐって -夢と現実、絵とテキストの交錯-」
盛田 帝子(外国語学部教授)

13:55~14:20 「版本から讀み解く中世朝鮮のテキスト讀解と生成 -『蒙山和尙法語略錄』諺解の訂正を手がかりに-」
杉山 豐(研究センター員)

14:20~14:50 前半の部の討論

休憩

後半の部

15:00~15:25 「初めて文字化されるテキスト -ウガンダ・キガ族の民話研究-」
梶 茂樹(研究センター員)

15:25~15:50 「二つの文字が出会う場所 -パキスタン映画ポスターにおけるテキストの選択-」
須永 恵美子(文化学部准教授)

15:50~16:15 「18世紀後半から20世紀後半までのロシア文学作品における複合動詞述語観点からのテキスト分析」
北上 光志(研究センター員)

2025年(令和7)年度 第4回研究会

日時 10月22日(水)
14:00~16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所会議室

発表者及びテーマ

雲岡 梓(文化学部准教授)
江戸の文学者 荒木田麗女の歴史物語表現

伊勢神宮神官の娘、荒木田麗女(1732-1806)は、平安王朝を舞台とする擬古物語や、天皇・武将等の事蹟を綴った歴史物語を執筆した。中でも、後醍醐天皇から後陽成天皇までの歴史を記す『池の藻屑』と、高倉天皇と安徳天皇2 代の歴史を記す『月のゆくへ』は、麗女の代表作であるとともに、日本の歴史物語の系譜の最後尾に位置する作品と評価されている。江戸時代に至るまでの歴史物語の系譜を辿りながら、麗女の歴史物語における文章表現の特徴を明らかにする。

島 憲男(ことばの科学研究センター員・外国語学部教授)
言語類型論の視点からみたドイツ語オノマトペ表現の描写性:ミヒャエル・エンデの『モモ』を中心に

発表者はこれまで宮沢賢治作品のドイツ語訳を中心に日本語を原典とする作品に生起する擬音語・擬態語表現がどのようにドイツ語に翻訳されているかを分析してきた。本発表では、新たにミヒャエル・エンデ(1929-1995)の『モモ』からのデータを加え、ドイツ語のオノマトペ表現が具体的に何をどこまで描写しているのかを言語類型論の研究成果の中で検討していきたい。

2025年(令和7)年度 第3回研究会

日時 2025年7月23日(水)
14:00〜16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所

発表者及びテーマ

宮坂 真紀(文化学部助教)
アンテルモ・セヴェリーニによる『竹取物語』の語源解説の翻訳の試み

1880年にフィレンツェで出版されたIl Taketori Monogatari ossia La fiaba del nonno tagliabambù はヨーロッパの言語による『竹取物語』の翻訳の中で最も早いもののひとつである。訳者アンテルモ・セヴェリーニはイタリアの高等教育機関で初めて日本語講座を担当した東洋学研究者として知られている。優れた言語学者でもあったセヴェリーニは『竹取物語』で多用される複雑なことば遊びに高い関心を示した。本発表では『竹取物語』における語源解説(世間一般に知られていることばの語源を『竹取物語』の作者が独自の解釈で物語に関連づけて説明したもの)の翻訳を精査し、翻訳上の工夫や課題を検討することで、19世紀のイタリアにおける日本語・日本文化理解の一端を明らかにする。

臼杵 岳(共通教育推進機構准教授)
僕らが「ワクワクする」理由:オノマトペ動詞の分類と多様性に関する一考察

影山(2021)は、オノマトペ動詞(「オノマトペ+する」)を7タイプに分類し、事象叙述、属性叙述に加え新たに身体感覚叙述が存在すると提案している。本発表では、オノマトペ動詞の意味的な多様性と項構造の統語的な具現化の観点から、影山分類を再考する(Akita (2010), 多田 (2010), 臼杵 (2024))。また、オノマトペ動詞の分析から動詞の項構造の具現化に関する「様態・結果の相補性仮説」に関して新たな知見を得られる可能性を探求する(Rappaport Hovav and Levin (2010), 臼杵 (2015, 2016))。

2025年(令和7)年度 第2回研究会

日時 2025年6月25日(水)
14:00〜16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所

発表者及びテーマ

高橋 純一(生命科学部・生態系サービス研究センター准教授)
ミツバチとの会話を目指して―ダンスが語る象徴性と意味伝達の構造

ミツバチの8の字ダンスは、動物界における象徴的コミュニケーションの中でも、最も顕著かつ精緻な事例の一つである。花の位置・距離・方向といった空間情報を巣内の仲間に伝える非音声的かつ視覚的な身体言語であり、そのパターンは「角度=方向」「ダンスの持続時間=距離」という空間座標の符号化に基づいている。これは、任意の記号と意味を結びつける象徴性という、言語的特性の一端を示している。
本発表では、まずカール・フォン・フリッシュによる古典的実験を紐解き、ダンス行動の構造と情報伝達機能を概観する。続いて、動物間コミュニケーション研究の最新知見を踏まえ、8の字ダンスが人間の自然言語の本質的特徴とどのように重なり合うかを検討する。さらに、近年明らかとなったダンス言語の進化的背景や地域差、振動・音・匂いを組み合わせた複合的コミュニケーションの実態についても紹介し、ミツバチの情報伝達を自然言語の周辺構造として再定位する可能性を示唆する。これらを通じて、動物と人間の“言語”を隔てる境界線を改めて問い直し、相互理解への新たな視座を提示する。

鈴木 孝明(ことばの科学研究センター研究員・外国語学部教授)
名詞句内の語順選好における統語的・認知的構造化

名詞句内の修飾語(指示詞・数詞・形容詞)の語順に注目し、統語的あるいは意味的構造とその線的順序との対応関係を準同型写像(homomorphism)と捉えて検討する。これは、階層構造をどのような語の並びにするかという「構造と線形化(linearization)」に関する広義のマッピングの問題として位置づけられる。日本語(L1)と英語(L2)に関しては、語順の「自然さ」に関する評価課題を用い、人工言語(L3)については、後置修飾構造をもつ語順の人工文法を学習させ、産出課題によって語順選好を調べた。本発表では、現在分析中のデータを提示し、それにもとづいて統語的あるいは認知的な構造化の原理が働いている可能性について議論する。

2025年(令和7)年度 第1回研究会

日時 2025年5月28日(水)
14:00〜16:00
場所 4号館2階 総合学術研究所

発表者及びテーマ

梶 茂樹(ことばの科学研究センター研究員・現代社会学部元客員教授)
Kiga語の動詞活用

アフリカのバンツー系の言語は一般に動詞活用が複雑である。現在私がウガンダで調査しているKiga語ではtense/aspect/moodによる変化が50以上もある。しかも、1つの時制において、基本形(主節形)、主語関係節形、目的語関係節形、when従属節形、if従属節形、分詞形などがあり、それぞれ形が異なるのでいちいち確認していかなければならない。特に変化に声調が絡むので、いくつかの条件を考慮して調べていく必要がある。Kiga語の調査はいまだ道半ばであるが、得られた活用形を打ち出すとA4紙で500ページを超える。今回は、6月に調査に出かけるので、中間報告として、このKiga語の動詞活用の全体像が見えるように整理して報告したい。

吉田 和彦(ことばの科学研究センター研究員・外国語学部客員教授)
ソシュール理論と印欧語比較文法

印欧祖語の母音交替の不規則性を内的再建法によって統一的に説明しようとしたソシュールの試みは、個別的な対応の解釈の寄せ集めではなく、構造体としての祖語の再建であった。ソシュールの見方によれば、印欧祖語にはソナントのように機能する自律的な音素(coefficient sonantique)が存在した。この音素は分派諸言語において完全に消失したと考えられていたが、ソシュールが亡くなってから2年後の1915年に解読されたヒッタイト語に部分的に保存されていることが明らかになった。こうしてソシュール理論の正しさは立証され、喉音理論(laryngeal theory)として確立した。その後今日に至るまで、喉音理論は印欧諸言語にみられるさまざまな不可解な音韻的および形態的な問題の解明に向けて、重要な役割を果たすようになっている。