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経済は「意思決定」の積み重ねである

すべてはボランティア活動からはじまった

  • 経済学部 経済学部 経済学科 准教授 東 雄大 YUDAI HIGASHI

経済は人々の意思決定の積み重ねによって動く――東雄大准教授は、労働市場におけるミスマッチや都市と地方の格差を、因果推論と統計分析によって解き明かそうとしている。その原点には、震災ボランティアや国際協力活動を通じた出会いと、社会課題の現実に触れた経験、そして、「問題の本質を捉えたい」という強い思いがある。

労働 × 都市の二枚看板

——— 研究テーマを教えてください。

一つは〈労働経済学〉で、職探しやマッチングのプロセスに関する研究です。最近では「企業の人手不足」が問題になっていますが、その一方で仕事を探していても見つからない人(失業者)も多くいます。あるいは、仕事をしたい人(売り手)が大勢いるのに企業の求人(買い手)が埋まらない時もあります。さらに、雇用はされたけど自分の能力が見合わない、相性が合わない、という場合もあります。「働いて能力を発揮できるはずの人材が使えていない」という状態は、社会的にもったいない――にもかかわらず、そうした〝ミスマッチな状態〟が生じるのはなぜか。私は出会いや相性に興味を持っていて、その結果どのようなことが起こるのかを研究しています。

もう一つは、人々や企業の立地、都市や地域内での経済活動を扱う〈都市・空間経済学〉です。例えば、東京に象徴される都市への一極集中と、その対となる地方との格差の問題があります。労働者の高賃金を実現する何らかの経済的メカニズムが、都市部では働いているとして、地方ではそれが十分に機能せず賃金も伸びない――とするなら、そのメカニズムを解明できれば、地方創生の政策立案にも活かせるはずですよね。

この二つのアプローチを二枚看板に掲げていて、両者が入り混じったような研究が多いです。

——— 研究の方法は?

主に統計分析です。厚生労働省や総務省統計局のデータ、研究機関などが実施するアンケート調査のデータを、特別な許可を得て取得して、STATAやRといったソフトを使って計量的に分析します。どちらかというとオーソドックスな手法だと思います。

——— 難しいなと思うところは?

近年の経済学の分析では「因果推論」――現象の因果関係の正確な識別――が重視されます。

地方より都市部の賃金が高い理由は色々推測できますが、ここで知りたいのは、「都市規模が大きいから賃金が高い」という因果関係が本当に成り立つのかです。本当は「高い賃金を得られる有能な人材が大都市に集まってくる」だけかもしれない。そうすると目の前にある現象は、因果関係が逆ということになります。

経済学研究の知見は政府や自治体の経済政策の指針になることがあります。経済政策を誤ると、人々の生活も誤った方向に導かれてしまう。そうならないように、研究者は様々な手法と最大限の慎重さで因果推論を行わなければならない――それがこの分野の難しさです。

意思決定の相互作用

——— 経済学というのはちょっと抽象的で、イメージしにくい面があります。

学生からも言われることがあります。経済成長とか株価とか、なんとなく遠い「大人の世界」で、若者には馴染みづらい。

——— 失業問題も、学生には直接は関係しませんしね。

それでも、経済学は人間を見る学問ですから、意外と身近だと思うんです。「今日の昼は何を食べようか」という日常的な選択から、「どの会社に就職しようか」のような人生を左右する重大な選択まで、我々は日々意思決定をしています。京産大の学生は自分で選んで入学を決めたわけですが、第一志望だった人も、そうでない人も、その意思決定の背後のどこかに、経済的な要因が必ずあるはずです。

個人も企業も、日々意思決定を行い、それらの積み重ねが集団としての相互作用を生む。経済学の研究対象は「個々の意思決定と、それらの相互関係から生じる集団全体の性質や傾向」だと思っています。私の仕事は、これらをデータから浮かび上がらせて、統計的な方法を使って分析して、メカニズムを探ることです。

ボランティアでの経験

——— 学生時代はボランティア活動をされていたそうですね。

二つのボランティア活動に関わっていました。一つは東日本大震災のボランティアです。

——— 当時は神戸大学の学生でいらした。

神大は震災を経験した大学ですから、ボランティアの初動も非常に早かった。被害の状況が日々報道され、学内で複数のチームが同時に立ち上がりました。私もなんとなく関心を抱いていたので、派遣日程が目に入ったそのうちの一つに、勢いに任せて参加したんです。派遣先は岩手県大船渡市のある町で――かなりショックを受けました。人の日常って、こんなにも簡単に崩れてしまうのか、と。

当初、現地活動は一度だけのつもりだったのですが、地元の方と交流を深めるなかで、気づけば何度も訪問していました。瓦礫の撤去や泥出しなどの肉体労働、避難所での炊き出し、仮設住宅での聞き取り、高齢の方の家事の手伝い、木工で棚を作り、溜まった洗い物を洗う――本当にささやかな支援を行いました。やがて、復興の取り組みにも関わるようになり、地域で開催される復興市などのイベントの運営サポートにも携わりました。

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左3画像:東日本大震災の被災地と復興ボランティアの様子。右3画像:フィリピン・セブ島のマンゴー産業の風景(東雄大提供写真をAI画像処理)

もう一つ、そのボランティア仲間に誘われて国際協力・フェアトレードのサークルに参加しました。最初は見学のつもりで行ったんですが、気づいたらそのまま部員になっていました(笑)。そのサークルはフィリピンのドライマンゴーの輸入などを手掛けていて、活動の一環で現地のマンゴー農家やスラムを訪問するといった刺激的な体験もしました。おかげで、生産者や生活環境の現実に触れることができました。

——— その経験が進路に結びついた?

自分にとって大きな意味を持っていて、研究者としての今につながっているのは間違いないです。学部生時代の私は、将来の見通しもやりたいことも当初は定まっていませんでした。受験で経済学部を選んだのは、元々政治や経済のニュースに興味があったのもありますが、今思えば「たまたま、なんとなく」です。

ただ、ボランティア活動はかなり一生懸命取り組みました。震災被災者や、貧困や抑圧に苦しむ途上国の人々は、自分に責任があるわけでもないのに、日々困難な状況に直面せざるをえない――そうした現実があることを強く実感するなかで、次第に、社会的な課題を解決する仕事に携わりたいなと思うようになりました。「ソーシャルビジネス」「社会的企業」などの概念を学び、NPO・NGOも選択肢に含め、進路の可能性を検討しました。

一方で、「そもそも何が問題の本質か」「どのようにアプローチすれば解決につながるか」を、腰を据えて捉える必要がある、という思いも強くなってきました。で、――ここで少し論理が飛躍する気がするんですが――その延長線上に「研究者」という進路が浮かんできたのです。

——— 何かきっかけがあった?

*
強い影響を受けたというJ・サックスの著書『貧困の終焉:2025 年までに世界を変える』(鈴木主税・中野邦子訳、早川書房)

国際協力のサークルの活動で、J・サックスの『貧困の終焉』(2006)を輪読する機会がありました。開発経済学の権威が、貧困解決のために必要な政策や、先進国が行うべき支援を論じ、それらをきちんと実行すれば2025年までに貧困国はなくなる、と主張する本でした。今となっては批判も多い本ですが、当時はそれを読んで純粋に興奮しました。そして、研究成果に基づいて政策を実行すれば、本当に課題を解決できるかもしれない――「経済学ってこんなにすごい力を持っているのか」と強く感じ、それまで〝たまたま〟だった経済学に、きちんと向き合ってみようと思ったんです。

ですから、私は研究者を最初から目指していたわけじゃなかったんです。勢いに任せてボランティア活動に参加して、たまたま出会ったサークルに入って……。

——— 意思決定してない?(笑)

偶然が重なった結果ですが、その中で自分なりに問題意識を持ち、「この道に進もう」と決めた。振り返れば、あのときボランティアに参加していなければ何も始まらなかっただろうとも感じています。



制作:京都産業大学研究機構研究推進センター
神山Research Profile製作チーム

聞き手:神谷俊郎(URA)
編集:新開絵梨佳

2026/10 ウェブ公開




経済学部 経済学科 准教授

Yudai Higashi

神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。日本学術振興会特別研究員(DC2)、岡山大学大学院社会文化科学研究科講師を経て、2023 年京都産業大学経済学部に助教として着任、2024年より現職。博士(経済学)。