2026.10.20

神戸から学ぶ多文化共生―三田ゼミの神戸フィールドワーク

「研究演習Ⅰ」(担当:三田 貴教授)の一環として、三田ゼミナール3年次生は兵庫県神戸市内においてフィールドワークを実施しました。

(国際関係学部3年次 竹内颯弥)

三田ゼミでは、複数の未来像から問題を分析し地域の課題改善・解決を目指す「未来学」を用いて、グローバル協働と共生の在り方について学んでいます。今回のフィールドワークでは、国際協力、宗教、人の移動という異なる角度から、日本社会と世界とのつながりを現場で考えました。神戸市は長年にわたる貿易港としての歴史から宗教的・文化的多様性を備えているほか、現在もJICA関西が位置するなど、日本と世界とのさまざまな接点を見ることができます。本記事では、特に大きな学びを得た2つの訪問先での気づきに焦点を当ててお伝えします。

近年、グローバル化の進展に伴い、日本国内でも多様な文化的背景を持つ人々と接する機会が増えています。一方で、インターネット等ではそうした変化に対する否定的な声を目にすることも少なくありません。では、日本における「多文化の受容」とは、本当にここ最近になって始まったものなのでしょうか。今回のフィールドワークでは、こうした疑問を胸に神戸の街を巡りました。

最初に訪れたJICA関西では、国際協力に関する展示を見学しました。水運びの大変さを疑似体験できる約8kgのポリタンクを実際に持つなど、展示を通して世界のさまざまな地域の暮らしや、国境を越えて人々や社会を支える国際協力について考えました。こうした国境を越えた支え合いも、多文化共生を考える一つの視点となりました。その後、神戸ムスリムモスクへ向かいました。

JICA関西で国際協力への理解を深めるゼミ生たち

神戸ムスリムモスクで学んだ多文化の受容

神戸ムスリムモスクは北野地区に位置する、日本で最初に建てられたイスラム教のモスクです。建物内部には広い礼拝堂があり、きらびやかなシャンデリアやステンドグラスから差し込む美しい光が印象的でした。最初に見せていただいた紹介映像では、第二次世界大戦中の空襲を耐えた同モスクが、家を失った人々を受け入れたことなどが紹介されました。こうしたお話を伺い、モスクが礼拝の場であるだけでなく、地域社会とも関わってきたことを学びました。

神戸ムスリムモスクの礼拝堂で説明を受けるゼミ生たち

また、特別に「ミナレット」と呼ばれる塔の最上部まで登らせていただき、仏教寺院や洋風建築が隣り合う北野地区の街並みを一望しました。モスクで伺ったお話から、80年以上も前の神戸で、異なる文化的・宗教的背景を持つ人々が地域社会と関わりながら暮らしていたことを知り、新鮮な驚きとともに深い感銘を受けました。

神戸ムスリムモスクのミナレットから望む北野地区

移住ミュージアムで学んだ移民を「送り出した」過去

神戸ムスリムモスクから徒歩10分ほど移動し、神戸市立海外移住と文化の交流センター内にある「移住ミュージアム」を訪問しました。同センターの建物は、かつて「国立移民収容所」として、ブラジルをはじめ海外へ出発する移住者が渡航準備のために数日間滞在した歴史的施設です。館内には、移住者が使用した農機具やカメラ、施設に滞在していた当時の部屋の様子などが展示されています。

館内では施設を運営されている日伯協会の方から丁寧なご解説を頂きました。ご説明を伺う中で、日本が海外移住を国策として推進していた時代があり、その背景には当時の国内の経済・社会状況があったことを今回初めて知りました。「外国人を受け入れる」という視点だけでなく、かつて日本が「海外へ人を送り出す側」であった歴史を知ることで、多文化共生を考えるうえでの新たな視点を得ることができました。

日伯協会の方から説明を受けるゼミ生

日本から海外へ移住する人々が渡航前に滞在した部屋

30

フィールドワークを終えて、学生からは「宗教というとどこか厳格な規律や制約というイメージを抱きがちだったが、モスクでお話を伺う中で、教えが人々の心の拠り所となり、日々の穏やかな暮らしを支えているのだと気づかされた。」「地元にブラジル系の知り合いが多くいたが、今回のフィールドワークを通して彼らのルーツやその背景について詳しく知れたため、とても新鮮でいい経験になった」という感想が寄せられました。

三田教授は、「今回、実際にモスクを訪れ、そこで人に会い、話を聞き、学生たちからもさまざまな質問をしました。知らない文化や宗教をイメージだけで捉えるのではなく、まず現場を訪ね、そこにいる人々と対話することで見えてくることはたくさんあります。また、移住ミュージアムでは、日本から海外へ移住してきた人々の歴史を学びました。『日本人』と『外国人』、『受け入れる側』と『送り出す側』を固定的に捉えるのではなく、人はさまざまな理由で国境を越えて移動し、異なる言葉や文化の中で適応し、対話しながら生きてきたという視点も大切です。人が移動してともに暮らすようになれば、文化や宗教の違いから生じる課題も、移住してきた人だけの問題ではありません。受け入れる社会もともに考え、対話しながら社会のあり方をつくっていく必要があります。未来学では、こうした現場で得た材料から過去や現在を捉え、『このまま進んだらどうなるのか』『異なる方向に進む可能性はないのか』と複数の未来を考えます。ただ、短時間のフィールド訪問で何かを『分かった』と思う必要はありません。むしろ、『もっと知りたい』『もう一度訪ねたい』『神戸以外ではどうなのだろう』と疑問が増え、問いが広がることを大切にしてもらいたいと思います。それが研究の出発点にもなります。今回の経験が、これからの卒業研究の問いを生み出すきっかけになればと思います」と話しました。

冒頭で抱いた問いに対し、今回のフィールドワークは新たな視点を与えてくれました。神戸の街で学んだのは、80年以上前から地域社会と関わってきたムスリムコミュニティの歴史と、かつて海外へ新天地を求めた日本人移民たちの足跡、そして国境を越えて人々や社会を支える国際協力の取り組みでした。。これらの学びを通して、多文化共生を近年の外国人受け入れだけから考えるのではなく、日本と世界との長い人の移動や、地域に形成されてきた多様なコミュニティ、そして国境を越えた支え合いという視点からも考える必要があることを強く実感しました。

今回のように教室内での学びに留まらず現地で人に会い、話を聞き、自ら体験することで得られる気づきを大切にしながら、今後も多文化共生への学びを深めていきたいです。