文化学部 中野 宏幸 教授は、8月26日、イタリア・フィレンツェにおいて、トスカーナ州観光振興機構(Toscana Promozione Turistica)のダニエラ・ブッリーニ氏、ミケーラ・パゼッリン氏と観光振興のあり方について意見交換を行いました。
トスカーナ州はイタリア中部に位置し、州都フィレンツェをはじめ、シエナ、ピサ、ルッカ、アレッツォ、プラートなど、多くの歴史都市を擁する地域です。なだらかな丘陵地帯や広大な農村景観が広がり、中世以来の都市文化と豊かな自然環境が共存しています。かつて都市国家であった歴史を背景に、今日でも各地域において独自の伝統や生活文化が受け継がれています。今回は、観光客の動向、観光政策の推進体制や関係機関との連携のあり方、重点的に取り組む施策を中心に懇談しました。
ブッリーニ氏、パゼッリン氏との意見交換
トスカーナ州では、州域にわたる持続可能な観光政策に力を入れています。トスカーナ州観光振興機構は、トスカーナの州政府に属する公的機関であり、州全体のブランド・マーケティングに取り組むとともに、地域の自治体や観光関係機関との連携・調整を担い、近年では州の政策方針である「トスカーナ・ディフーザ(Toscana Diffusa)」の考え方のもと、周辺の小規模な歴史都市や農村地域への誘客を進め、観光客の分散化と地域振興の両立を進めています。
徒歩や自転車による周遊、巡礼路や農村景観を楽しむアウトドア観光やスローツーリズムの推進にも取り組んでおり、地域の自然環境や生活文化を尊重した観光の実現を目指しています。また、地域住民や事業者との協働を重視し、観光による経済効果が地域社会へ還元される仕組みづくりを進めています。
トスカーナ各地の豊かな食材が並ぶサン・ロレンツィオ市場(Mercato Centrale Firenze)(中野教授撮影)
トスカーナ州では、景観や文化資源の魅力を発信するだけでなく、旅行者一人一人に質の高い体験を提供し、地域との深い関わりを生み出すことを重視しています。そのため、観光客のニーズや行動をデータに基づいて把握しながら、受入環境やサービスの向上に取り組んでいます。
食文化はトスカーナ観光の重要な魅力の一つとして位置付けられています。ワインやオリーブオイル、郷土料理など、地域の歴史や暮らしに根ざした食の体験を通じて旅行者に地域の価値を伝えるとともに、地域産業の振興や地域経済への波及効果にもつなげています。
ローマ時代の遺構を基盤とするフィレンツェ近郊の歴史都市ルッカのアンフィテアトロ広場(学会主催のテクニカルビジットで中野教授撮影)
今回の訪問および持続可能な観光マネジメント国際学会(ICSTM2026)での意見交換を通じて、文化や観光の振興においては、地域資源そのものの価値だけでなく、それを支える人々の暮らしや地域社会への理解が重要であることをあらためて実感しました。
トスカーナ州では、スローツーリズムや観光客の分散化に加え、誰もが観光を楽しめるユニバーサルツーリズムの推進にも取り組んでおり、観光と地域社会の共生を重視する姿勢がうかがえました。こうした取組に触れることで、持続可能な観光と地域社会の発展を両立するための示唆を得る機会となりました。