経営学部「組織変革論」(担当教員:高尾 義明 教授)のゲストスピーカーとして、日本みらいホールディングス株式会社 代表取締役社長 安嶋 明(やすじま あきら)氏をお招きし、「危機状況下における成熟中小企業のアントレプレネリング」というテーマで、講義を行っていただきました。「アントレプレネリング」は、アントレプレナーシップの動詞形として、組織の中で新しい行動や創発が生まれていくプロセスを指す概念です。安嶋氏が実際に携わった老舗ベーカリーの事業再生事例を通して、組織変革のプロセスや社員主体の自律的な変革のあり方について学びました。
(学生ライター 国際関係学部 2年次 岡本 倫太朗)
安嶋氏は、旧日本興業銀行で約20年勤務した後、2002年に事業再生を専門とするエクイティ投資会社 日本みらいキャピタル株式会社を創業されました。以来、中堅・中小企業を中心に企業再生や成長戦略支援に携わってこられました。同社の特徴は、資金支援だけでなく、現場に入り社員と共に課題解決を進める「伴走型支援」にあります。講義では、経営陣によるトップダウンではなく、社員一人ひとりの声を引き出す継続的なワークショップや対話を通じて組織変革を促進していることが紹介されました。
危機に直面した創業90年の老舗ベーカリー
事例として、創業90年を迎えた老舗ベーカリーA社の事業再生が取り上げられました。A社では工場の老朽化が進み、部門間の連携不足という課題を抱えていました。さらに、コロナウイルス感染症の影響により売上が大きく落ち込み、厳しい経営環境に直面しました。こうした状況の中、安嶋氏らは新工場の建設や、真空冷却器などの新設備の導入を進めるとともに、異なる部署の社員が参加する全社横断型ワークショップを毎月実施することにより、組織内の相互関係性を改善しました。約5年間にわたる長い期間の中で、社員同士が対話を重ねながら会社の課題や将来像について議論を続けたそうです。
安嶋氏は、組織変革は一部のリーダーだけが担うものではなく、社員一人ひとりの行動と対話の積み重ねによって実現すると説明されました。
「自分ごと化」が組織を変える
ワークショップを続ける中で、それまで交流の少なかった従業員同士が互いを理解し、「自分は会社の一員である」という意識が育まれていきます。社員が会社の課題を自分自身の問題として捉える「自分ごと化」が、変革の重要な出発点になったことが紹介されました。
また、安嶋氏は、小さな行動の変化が新たな行動を生み出し、それがさらに組織全体へ広がっていく様子を「行為主導循環モデル」として説明されました。組織変革は決められた計画に基づいて一直線に進むものではなく、試行錯誤やときには後戻りを繰り返しながら進展していくものだと解説されました。
過去を生かす「学びほぐし」
質疑応答では、安嶋氏の著書の題名にもなっている「学びほぐし」について、学生から質問が寄せられました。安嶋氏は「学びほぐし」とは過去の経験や慣習を全て否定するのではなく、その中にある価値を見つめ直しながら、現在の環境に合う形へと再構築することだと説明されました。
今回の講義では、企業再生の事例を通して、組織変革の本質について学ぶことができました。特に、変革はトップだけが生み出すものではなく、社員一人ひとりの対話や行動の積み重ねによって実現されるという考え方が印象的でした。安嶋氏の豊富な実務経験と具体的な事例紹介を通じて、学生にとって組織変革やリーダーシップについて理解を深める貴重な機会となりました。