2026.07.21

漆×マイクロ構造エンジニアリング:微細構造が生み出す光学特性と撥水性

京都産業大学 文化学部の成田智恵子准教授らの研究グループは、日本古来の天然塗料である漆の表面に微細な凹凸パターンを転写する技術を検証し、色素を使わずに鮮やかな虹色を発色させるメカニズムを明らかにしました。

さらに、この微細構造によって漆表面の撥水性が向上することを実証し、新たな機能性を見出しました[1]

■伝統素材「漆」の可能性を広げる材料科学からのアプローチ

漆は、天然の酵素の働きによって硬化し、高い耐久性を示すサステナブルな天然素材です。

近年、化学物質などを添加せずに漆の可能性を広げる試みが注目されています。

本研究グループは、漆表面の「形(構造)」を物理的に制御することで、新たな光学特性や機能性を付与するメカニズムの解明に取り組みました。

微細構造が生み出す漆の美と機能

■ AFM(原子間力顕微鏡)が明らかにした高精度な微細構造

着目したのは、モルフォチョウやタマムシに見られる、光の干渉を利用した発色の仕組みです。

研究グループは、3Dプリンターなどに用いられる、表面に微細な溝が規則的に形成された特殊なシートを利用して、漆表面へ微細構造を転写しました。

AFM(原子間力顕微鏡)による詳細な解析の結果、微細な凹凸構造が漆表面へ極めて高い精度で転写されていることが実証されました。

この微細構造によって光の反射・干渉・散乱が制御され、見る角度によって色が変化する美しい虹色の発現が確認されました。

■ 微細構造が生み出す「Cassie-Baxter状態」で撥水性がアップ

本研究では、微細構造の転写が光学特性だけでなく、漆の撥水性にも影響を及ぼすことを明らかにしました。

漆表面に形成された微細な溝には空気が保持され、水滴がその空気層の上に乗るCassie-Baxter状態と呼ばれる現象が漆の表面で生じました。

その結果、水滴と漆表面との接触面積が減少し、通常の漆塗膜と比較して撥水性が向上することが実証されました。

撥水のメカニズム

■ 微細構造は漆の材質にどう影響するのか?

研究グループはさらに、微細構造が漆の物性や化学特性に与える影響についても解析しました。

引張試験機による機械的特性の評価や、赤外分光法(FT-IR)による化学構造の分析を通して、微細構造を有する漆塗膜の力学特性や硬化状態の変化を明らかにしました。

これらの結果は、微細構造による表面積の変化が漆の材料特性へ与える影響を理解するうえで重要な知見となります。

■ サステナブルな最先端塗料としての未来

本研究は、数千年にわたり利用されてきた天然素材である漆に対し、化学物質を添加することなく、マイクロ構造エンジニアリングという物理的手法のみで、特有の光学特性と高い撥水機能という複数の機能を付与できることを科学的に示したものです。

本知見は、環境負荷の少ない次世代の光学材料や機能性コーティング、サステナブルな高機能塗料などへの応用が期待されます。

本研究の手法を応用し、微細構造を付与した漆塗膜

この記事は、2026年6月に発表された以下の論文の内容を要約したものです。

[1]    C. Narita, S. Machida, H. Ino, and K. Yamada. Microstructured urushi films with structural color and enhanced surface properties by replication from submicron-patterned substrates. Progress in Organic Coatings, 219, 110364 (2026).
https://doi.org/10.1016/j.porgcoat.2026.110364
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