
経済学部の専門教育科目「社会デザイン特別講義」(担当:菅原 宏太 教授)では、経済学に関連する「ヒト・モノ・カネ・情報」の観点から社会課題に接近するデザイン手法を学修できる機会として、社会デザインを実践しているキーパーソンを講師として招き、取組みの経緯・苦労・成果など、また実践現場から考える日本の社会経済のあり方について、それぞれの視点からお話しを伺います。第10回の授業では、能登町役場 企画財政課課長補佐 灰谷 貴光 氏を講師にお迎えし、能登半島地震からの復興に関する取り組みについてご講義いただきました。発災当時の状況や、現在進められている復興の実践を学ぶ貴重な機会となりました。
(学生ライター 経済学部1年次 森田結衣)
背景
灰谷氏は、日本三大イカ釣り漁港の一つ「小木港」で知られる石川県鳳珠郡能登町小木で生まれ育ち、2015年から地方創生担当として、町の関係人口創出事業に携わってこられました。2024年1月1日に能登半島地震が発生し、同年4月から復興推進課の復興計画策定担当に選任され、現在は企画財政課の課長補佐として復興に向けた取り組みを進められています。
能登町は石川県能登半島の北東部に位置し、人口約1万3千人の小さな町です。豊かな海や里山の自然、漁業文化、伝統的な民俗行事など、多くの地域資源に恵まれています。講義では、こうした能登町の魅力とともに、震災によって直面した課題や復興に向けた取り組みについてお話しいただきました。

課題
能登町では、発災により家屋の約4軒に1軒が解体を余儀なくされ、85名(うち直接死2名)が亡くなりました。また、発災後は町外への転出や自然減が進み、人口は1,696人減少するなど、地域社会に大きな影響を及ぼしました。復旧・復興に伴う業務量の急増や先行きの見えない状況から、自治体職員の約7割が「辞めたい」と感じたという調査結果(全日本自治団体労働組合石川県本部調べ)も紹介されました。一方で、能登災害ボランティアセンターや災害ボランティア団体OPEN JAPANを通じて24,621名が支援活動に参加し、多くの支援が集まる中で、「復興を誰が担っていくのか」という課題が浮き彫りになりました。
取り組み
東日本大震災で被災した自治体の担当者との交流を通じて、灰谷氏は「復興」という言葉を多様な視点から捉えておられました。例えば、「復興とは再び盛んになること、被災前よりプラスの状態をつくり出すこと」(広辞苑)、「復興は発災によって得られたリソースを活用する未来へのまちづくり」(宮城県気仙沼市の担当部長)、「復興とは、その道のりを通じて地方の新しい価値や可能性を生み出すこと」(宮城県女川町の担当課長)などです。
こうした言葉を踏まえ、能登町では「今の能登にしかないもの」を活かし、人口減少率が発災前の2.5倍以上となる厳しい状況を、復興に向けた新たな挑戦につながる「資源」と捉え、被災前よりもさらに魅力ある地域を目指しています。
最初に動いたのは高校生でした。石川県立能登高校の有志が東日本大震災の被災地を訪問し、岩手県立釜石高校の「夢団」と交流しました。復興の現場を体験し、「自分たちにできること」を考え、高校生・大学生を対象とした被災地ツアーを企画しました。震災の経験が、能登の将来を自分事として向き合うべき課題として捉える意識を生み出したのだと灰谷氏は語られていました。
また、本学からも学生がボランティアに参加し、被災地でしか得られない体験や実践の場での挑戦を通じて、外部人材が継続的に能登の復興を後押ししています。さらに、能登町・東京大学・日本航空株式会社の三者による「創造的復興および未来を担う人材育成に関する連携協定」が締結され、自治体・大学・企業が連携して、災害から学び地域課題を自分の課題として捉え、未来につなげる人材育成が進められています。
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まとめ
震災からの復興には、被災前の姿を取り戻すだけでなく、地域の未来を見据えた新たな価値を創出していく視点が求められていました。今回の講義では、住民・行政・企業・ボランティアがそれぞれの立場で連携しながら復興に取り組む姿が紹介され、人と人とのつながりが地域を支える大きな力となっていることを学びました。
講義を受講した学生からは、「若い世代には何ができるのか」「自分の地域で何かできることはないか」といった質問が寄せられ、地域課題を自分の立場から考えようとする姿勢が感じられました。

私自身、講義を通して、復興は行政だけでなく、住民や高校生、大学生、そして外部の支援者など、多様な主体の連携によって支えられていることを知りました。特に、高校生が自ら企画を立ち上げ、能登の未来に向けて行動している姿が印象に残りました。
また、復興を「被災前の状態に戻すこと」ではなく、「新しい価値や可能性を生み出すプロセス」と捉える考え方に触れ、地域課題への向き合い方が大きく広がりました。地域をより良くするためには、一人ひとりが地域課題を自分事として捉え、できることから行動することが大切だと実感しました。今後は私自身も身近な地域に目を向け、小さなことから行動に移していきたいと思いました。