この研究会は、児童虐待対策を中心に児童福祉法制の全体について、法学の多様な分野から多角的に検討するとともに、児童福祉や警察の現場との対話を目指すものです。法学と社会福祉学の研究者と児童相談所職員を中心に20名弱が参加しました。
第9回となる今回は、前回に引き続いて、2024(令和6)年4月施行の児童福祉法改正によって児童相談所に義務付けられた子どもの意見表明権を保障するための取組みをテーマとしました。もっとも、児童相談所で現に行われている取組みを取り上げるのではなく、アメリカの児童保護(児童虐待対応)システムと日本の家事審判で実施されている子どものための弁護士の活動を、日本の児童相談所での子どもアドボカシー※と比較することを試みました。
最初に原田綾子氏(名古屋大学教授・法社会学)が、「アメリカの児童虐待対応――介入の原理と手続・日本との比較――」と題して、アメリカにおける児童虐待の現状、それへの国家の介入の基本的考え方と手続、その手続中での親・子どもの手続保障と弁護士の役割などを紹介し、日本の児童虐待対応と大まかな比較を行いました。
この報告を前提にして、次に、ロリ・デューク氏(テキサス大学ロースクール子どもの権利クリニック臨床教授)が、「児童保護システムにおける子どもの声」という報告を行いました。内容は、被虐待児のトラウマ、テキサス州における児童保護システムの概要と、その中での裁判所の関与のしかた、裁判所での手続きにおける児童保護機関・親・子どもの代理人、ケースのプロセスとそこでの代理人(弁護士)の役割、代理人が子どもの声を聴くための活動、代理人と子どもとの面接の実際、子どもの年代別の代理人の役割など、多岐にわたるものでした。報告の最中にも質疑応答や意見交換が行われ、弁護士(Attorney ad litem)と訴訟後見人(guardian ad litem)との役割の違い、アメリカの子どもの弁護士と日本の家庭裁判所調査官の役割の違い、子どもの代理人の調査権限、他の当事者の代理人との関係など、実務の詳細にわたる議論が行われました。
<議論の様子>
最後に再び原田氏が、「弁護士による子どものアドボカシー――家事事件手続における子どもの手続代理人の活動から――」と題して、日本の家事事件手続において子どもに付される手続代理人として活動した弁護士へのインタビュー調査結果を報告し、この裁判所での経験が児童裁判所での子どものアドボケイトに生かせるのではないかとの示唆をしました。
報告と議論を通じて、日米両国の児童虐待対応システムの手続の違いだけでなく、それぞれの基礎となっている基本的な考え方の違いや関与者の役割の違いまで、明確になりました。そのような違いがあるにもかかわらず、両国の実務が抱えている課題には共通するところも多いという認識が得られ、それらの課題を乗り越えるためにも子どもの意見を適切に聴くことの重要性が確認されました。
なお、今回の研究会が充実したものとなったのは、卓越した通訳である東野映子氏のお力によるところが大きかったことを付言します。
※アドボカシー:個人や集団が自分自身または他者の権利や利益を、社会や政治の場で訴える行動のこと。