120年ぶりの民法大改正⁉ わたしたちの生活で何が変わる?

1.はじめに

衆院本会議で民法改正案が可決し、一礼する金田法相
(日本経済新聞2017年4月14日記事「民法改正案が衆院通過 契約ルール抜本見直し」)

「120年ぶりの民法大改正」、そんなNewsを耳にしたことはありませんか?
2020年(令和2年)4月1日、民法の契約ルールを大幅に改正する「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が施行されました。「社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする」という観点から行われた今般の民法改正は、1896年(明治29年)の民法制定以来となる契約法の抜本的な見直しを行うものです。このコラムでは、社会的にも大きな注目を集めた「売主の瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」の改正を取り上げたいと思います。

2.民法改正前の瑕疵担保責任

「瑕疵担保責任」とは、売主が引き渡した物に「隠れた瑕疵」がある場合にその売主が負う法律上の責任のことをいいます。例えば、売主Aと買主Bとの間の自動車の売買契約でAが自動車をBに100万円で売却したけれども、自動車のブレーキが故障していてBは運転することができなかったというケースで考えてみます。このときAは、瑕疵(欠陥)のある自動車をBに引き渡したことについて民法上の責任を負わなければなりません。具体的には、Aは、Bに対し、契約の解除や損害賠償の責任を負うことになります。
いま挙げた例では売買の目的物は自動車でしたが、これを土地や建物、冷蔵庫、テレビ、パソコン、エアコン、ゲーム機などの日常取引されている物に置き換えてみると、「物の瑕疵」をめぐる法律問題が私たちの生活に密接に結びつくことが分かります。

3.民法改正後の契約不適合責任

それでは、売主の瑕疵担保責任の制度は、改正民法のもとでどのように変わったのでしょうか。改正項目は多岐にわたります。詳細まで触れることは難しいですが、改正法の内容を理解する上で重要と思われるポイントを確認したいと思います。従来の瑕疵担保責任制度は、民法改正の「基本理念」(社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものにする)に沿う形で、次のように改正されました。

まず、改正民法において、売主の「瑕疵担保責任」は、「契約不適合責任」と呼び方を変えます。「隠れた瑕疵」という難解な用語は廃止され、売主の責任は、その引き渡した物が「契約の内容に適合するかどうか」という観点から判断されることになりました。また、従来、買主の権利は(少なくとも民法の条文上は)「契約解除権」と「損害賠償請求権」しか定められていませんでした。これに対し、改正法のもとでは、買主の「追完請求権*」と「代金減額請求権」という2つの権利が追加されました。
*「追完請求権」とは、契約に適合しない物を引き渡した売主に対し、買主が、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる権利のことを言います(改正民法562条)。

4.解釈上の問題

このように、改正民法のもとでは、時代の変化に対応し、かつ、国民にとって分かりやすいルールを示すために、従来の瑕疵担保責任の制度が大きく変更されました。もっとも、民法改正によって、以前にはみられなかった新しい問題も生じています。ここでは「代金減額請求権」を例に2つの具体的な問題をみていきたいと思います。

その1 代金減額の算定方法

代金減額請求権について、新しい民法の条文は、「買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。」(民法新563条)と規定しています。しかし、契約不適合の程度に応じて代金を減額できるとはいっても、その具体的な算定方法は必ずしも明らかではありません。例えば、次の例において、売買目的物(土地)の減額後の代金はいくらになるでしょうか。

改正民法第563条

第1項 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

[例] Xは、Yから、一筆の土地(評価額1,000万円)を売買代金1,500万円で購入した。この土地には契約不適合(例えば、土壌汚染など)があり、その評価額は実際には800万円であった。Xは、Yに対し、土地の売買代金の減額を請求した。

さて、Xが代金の減額を請求した場合、土地の減額後の代金はいくらになるか。二つの考え方があります。一つは、減額後の代金を1,300万円とする考え方です。本来あるべき価値と比べて実際には甲土地の価値は200万円分下落しているので、その分を売買代金(1,500万円)から差し引くという考え方です。これに対し、減額後の代金を1,200万円と評価する考え方もあります。これは、契約不適合がなかった場合の土地の評価額(1,000万円)と契約不適合がある土地の実際の評価額(800万円)との割合(4/5の減額割合)を代金額(1,500万円)に乗じて減額後の代金を算定する方法です。どちらかと言えば、後者の考え方が有力です。

その2 代金減額後の契約解除?

代金減額をめぐっては、もう一つ重要な問題があります。上述した土地売買の例において、Xは、代金の減額により、いったんYと折り合いをつけました。ところが、その後Xは、「契約に適合しない土地を購入しても仕方がないのではないか」と思い直し、Yに対して契約を解除したいと申し出たとします。Yは「済んだ話を蒸し返すな」と言って聞く耳をもちません。このとき、Xは、契約を解除できるでしょうか。
ここでも2つの異なる考え方があります。一方では、Xが代金の減額をした以上、契約不適合はなかったことになるのだから、代金減額後に契約を解除することはできないとする見解が有力に主張されています。しかし他方で、代金減額前は契約の全部について解除が可能であったはずであり、買主がいったん代金の減額をしても、その後に契約を解除することは妨げられないとする見解もあります。どちらの見解が妥当でしょうか。確立した見解はまだありませんが、これからの取引社会において重要な問題だと思います。ぜひ一度考えてみてください。

5.おわりに −これから法学を学ぼうとする方へのメッセージ−

このコラムでは、瑕疵担保責任の改正について紹介しました。代金減額請求権のところで触れたとおり、新たな契約不適合責任制度にはいくつかの解釈上の問題が残されています。また、今後、民法改正時に予想もしなかったような問題もたくさん出てくることでしょう。重要なことは、私たち一人ひとりが新しい民法への理解を深め、解決を要する課題に取り組み、建設的な議論を続けていくことだと思います。法学の勉強をしていると、自分と異なる他人の意見に触れる機会がよくあると思います。そのような機会を大切に、多様な視点から、物事を考えてみてください。きっと法学の勉強が楽しくなると思います。

古谷 貴之 准教授

民法、国際取引法

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