気候変動についてカリフォルニア州の取り組み

G20 大阪サミット首脳集合写真(日本外務省HP)

気候変動、プラスチックごみ(プラごみ)による海洋汚染などの環境問題は、国際社会が最優先で取り組むべき課題であり、6月28日~29日に開催されたG20大阪サミットでも主要な議題の一つとなりました。
気候変動問題に関して、「G20大阪首脳宣言」には、「アメリカはパリ協定がアメリカの労働者及び納税者を不利にするとの理由から、同協定から脱退するとの決定を改めて表明する。」という文言があります。この文言から、トランプ政権の気候変動問題に対する消極的な姿勢を読み取ることができますが、実はアメリカ全体が気候変動問題に無関心というわけではありません。むしろ西海岸のカリフォルニア州はドイツ、フランス及び中国などと協力関係を築き、気候変動問題に対して国際社会で強いリーダーシップを発揮しています。

2013年カリフォルニア山火事 The Rim Fire
(アメリカ農業省HP)

カリフォルニア州は5,440kmの長い海岸線を有し、海面上昇などの影響を受け易い環境にあります。また、給水システムが未発達で、しかも年々大規模化する干ばつと山火事の脅威に直面するため、1988年から気候変動について積極的に取り込んできました。カリフォルニア州の人口は3,960万人、面積は42万㎢、2017年のGDPは2.7兆ドル、国家であればイギリスを抜いて世界第5位の経済規模になりました。一般的に経済成長を優先すると環境破壊に繋がると言われていますが、カリフォルニア州の経済成長率はアメリカ全体よりも高く、経済成長と環境保全が両立できることを世界に証明しました。特に、温室効果ガス削減対策に関するカリフォルニア州の取り組みは、アメリカ国内でリードするのに留まらず、世界にも大きなインパクトを与えています。

カリフォルニア州は2006年に「カリフォルニア州地球温暖化対策法(California Global Warming Solutions Act)」を成立させ、2020年までに温室効果ガスの排出を1990年レベルまで削減させる目標を打ち出しました。この法律では、温室効果ガスの排出量取引制度(キャップ&トレード)の導入、電気自動車の推進、再生可能なエネルギーの普及などが含まれています。

※「排出量取引制度(キャップ&トレード)」とは、政府がCO2などの温室効果ガスの排出量に上限(キャップ)を設定し、企業や事業にそれぞれの分量を割り当て、その上限を「下回った(余った)排出量」や「不足した排出量」を売買できる仕組みのことを言います。

気候変動問題への取組みには、その性質から、国家、地域、企業、市民などさまざまなアクターの参加が必要です。カリフォルニア州はアメリカ国内で他の州との連携はもちろん、国際社会との協力も積極的に行い、ブラジル、カナダなど十数カ国と二者間協定を結んでいます。また、カリフォルニア州は世界の平均気温を2℃下げることを目標に活動している国際イニシアティブ「Under2 Coalition」の創設メンバーで、国際気候変動ネットワークの主要メンバーでもあり、その積極的な取り組みは国際社会で高く評価されています。

カリフォルニア州は世界最大の温室効果ガス排出国である中国にも大きな影響を与えています。両者の環境協力は、2005年にシュワルツェネッガー元知事が訪中した時に遡ります。最初の技術交流は地方政府、企業、大学及びNGOが主なアクターでしたが、その後、シュワルツェネッガーの後任となったブラウン元知事が中国政府といくつかの覚え書き(Memorandum of Understanding)を合意し、気候変動問題に関して協力することになりました。

ブラウン元知事と習近平国家主席は気候変動について会談
(新華網HP)

ロサンゼルスで使われている中国メーカーの電気バス
(新華網HP)

2017年6月1日にトランプ大統領がパリ協定を離脱する宣言し、その数日後に、ブラウン元知事は北京で習近平国家主席と気候変動について会談し、両者間の継続的な協力を宣言しました。2018年12月に、カリフォルニア州は「グローバル気候行動サミット(Global Climate Action Summit)」を開催し、企業・自治体・NGOなどの非国家アクターへの積極的な参加を呼び掛け、トランプ政権に強いメッセージを送り、気候変動問題に関して国際社会でリーダーシップを発揮しました。

中国との環境協力では、カリフォルニア州から中国への技術、政策アイディアなどの提供からスタートしましたが、その後、中国からのカリフォルニア州に対する技術提供も徐々に増えてきました。2019年現在、電気自動車市場において中国は世界最大、カリフォルニア州はアメリカ最大の規模となっており、両者を合わせると、世界の電気自動車販売台数の半数以上を占めることになります。両政府は電気自動車の割合をさらに高めることを意欲的に取り組み、カリフォルニア州は2030年までに500万台を計画し、中国は2025年までに700万台を目指しています。この目標を実現するために、中国政府は全ての自動車メーカーに対して販売台数の10%を電気自動車でなければならないという規制を作り、これはまさにカリフォルニア州の制度を参考にした政策学習です。

カリフォルニア州は気候変動問題に関して国内及び国際社会で強いリーダーシップを発揮していますが、この問題を解決するためにはアメリカ連邦政府や他の多くのアクターを巻き込むことが今後の課題となっています。

焦 従勉 教授

公共政策学、地域ガバナンス、環境ガバナンス


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