ANAの上級会員制度改革から考える「三つのずれ」と国際的な公平性

2026.10.26

1. ANAの上級会員制度改革で何が起きたのか

飛行機に毎年何度も乗って上級会員資格を維持する人がいる。一方、一度取得した資格を、その後はほとんど飛行機に乗らずに維持できる人もいる。同じ国際航空連合の上級資格でありながら、こうした違いがあることをご存じだろうか。

全日本空輸(ANA)が2026年4月に発表した上級会員制度の改革が議論を呼んでいる。ANAは、上級会員向けの優遇サービスを長期間利用できる「スーパーフライヤーズカード(SFC)」について、2028年4月から新制度を導入する。これまでカードの年会費だけで維持できた、国際航空連合「スターアライアンス」の上級会員資格「ゴールド」について、原則として年間300万円以上のANAカード・ANA Payの対象決済額が必要になる。条件を満たさない場合もSFC会員資格は継続するが、スターアライアンス・ゴールド資格は維持できなくなる(全日本空輸, 2026)。

会員からの反発を受け、ANAは9月29日に改革案を一部修正し、ANAラウンジの利用など従来のサービスを条件付きで維持することとした。しかし、国際的なゴールド資格の維持条件は変更されなかった(吉川, 2026a)。改革の背景には、ラウンジの混雑やカードの利用実態などの問題があると報じられている(樋口, 2026)。

国内では特典縮小への不満が目立ち、日本航空(JAL)への乗り換えを検討する声もある。しかし、このニュースは、国境を越えて共通のサービスを提供する企業や利用者など、異なるアクター(当事者・主体)の立場から見ると、別の問題を浮かび上がらせる。

2. 世界から見ると、従来のSFCは何が特殊だったのか

航空会社は頻繁に利用する顧客に上級会員資格を与え、ラウンジ利用や優先チェックイン、優先搭乗、手荷物の優先扱いなどのサービスを提供している。さらに、スターアライアンスのような国際航空連合では、加盟会社間で上級会員資格を相互に認め合っている。ANAを通じてゴールド資格を得れば、ユナイテッド航空やルフトハンザ航空などでも共通の優遇サービスを利用できる。逆に、海外の加盟会社から資格を得た人も、ANAで同様の優遇を受けられる(Star Alliance, n.d.)。

ところが、同じ国際資格でも、その維持条件は大きく異なる。例えば、ユナイテッド航空では通常、毎年一定の搭乗実績などが求められる(United Airlines, n.d.)。海外の主要航空会社では、カード決済額を上級資格の取得・維持に必要な実績に算入する方式も広くみられる。また、搭乗せずに一定のカード決済額でゴールド資格を得られる例もある i。しかし、従来のANAのSFCは、所定の搭乗実績を達成して入会すれば、その後は毎年の搭乗実績もカード決済実績も必要なく、カードの年会費だけでゴールド資格を維持できた(吉川, 2026b)。さらに、家族会員も本人の搭乗実績にかかわらず、ゴールド資格に伴うサービスを利用できた(全日本空輸, n.d.)。

仮に10年間ゴールド資格を維持するとしよう。ユナイテッド航空の通常の年次更新制度では、原則として10年間にわたり毎年資格条件を満たす必要がある。一方、従来のSFC会員は最初の取得後、その後の9年間は搭乗実績による更新を求められない。ここでいう公平性とは、同じ国際資格を維持するために、それぞれの利用者にどのような条件が求められるかという問題である。毎年搭乗実績を重ねる他社の会員から見れば、この格差には疑問が生じ得る。

ラウンジの座席数や優先サービスの提供能力にも限界がある。しかし、ここで問われるのは、ANAの制度に従って正当に資格を得た会員個人ではない。頻繁に飛行機を利用する人への優遇と、国際的な上級会員資格の関係をどのように考えるかという制度設計の問題である。

空港の優先保安検査レーン「Gold Track」。スターアライアンス・ゴールド資格により、対象空港では保安検査を優先的に受けられる (筆者撮影)

3. 誰の立場から見るかで変わる「三つのずれ」

ANAの改革は、どのアクターの立場から見るかによって評価が異なる。そこには、三つのずれが見えてくる。

第一に、既存会員の利益と、国際的な資格維持条件の公平性のずれ。従来のSFC会員にとって、今回の改革は長年認められてきた特典の縮小である。一方、ANAを含め、毎年搭乗実績を積み重ねている会員から見れば、ほとんど搭乗しなくても同じ資格を維持できる仕組みには、公平性の疑問が生じ得た。今回の改革でも搭乗実績は求められないが、少なくとも一定額の継続的なカード決済が必要となり、従来よりも資格維持に相応の負担を求める仕組みとなる。

第二に、航空会社が重視する経営上の課題と、利用者が重視するサービスのずれ。 ANAはカード利用の促進やサービス提供の負担を重視している。海外加盟航空会社のラウンジを利用する際には、航空会社間で利用料の精算が行われる(橋賀, 2026)。ANAが自社ラウンジの利用条件を緩和しながら、スターアライアンス・ゴールド資格の維持条件を変更しなかった背景には、こうした費用負担と会員から得られる収益とのバランスを見直す意図もあったと考えられる。一方、海外を移動する利用者にとって、ゴールド資格の価値はラウンジだけではない。優先チェックイン、優先搭乗、手荷物の優先扱いに加え、空港によっては優先保安検査も利用できる。ANAが国内線や一部の国際線ラウンジの利用を認めても、ゴールド資格を失えば、海外の加盟航空会社で受けられる共通の優遇サービスも失われる。

第三に、各航空会社の独自の資格基準と、国際的な共通制度のずれ。 ANAが自社の顧客にどのような優遇を与えるかは、基本的にはANAの経営判断である。しかし、スターアライアンス・ゴールド資格を付与すれば、その優遇は海外の加盟航空会社にも広がる。資格の維持条件は各社が独自に決める一方、共通資格に伴うサービスは国際的に相互提供される。この仕組みのもとで、資格維持条件の大きな違いをどこまで認めるべきかという問題が浮かび上がる。

こうして見ると、同じ制度改革でも、既存会員の利益、航空会社の経営判断、他社の上級会員から見た公平性、そして国際的な制度運営という異なる問題が関わっていることがわかる。

ユナイテッド航空のラウンジ「United Club」。入口にはANAを含むスターアライアンス加盟航空会社が表示され、国際的な上級会員サービスの相互提供を示している (筆者撮影)

4. ANAの改革をどう評価するか

日本の航空会社で、カード保有によって国際的な上級資格を長期間維持できる仕組みはANAだけではない。日本航空(JAL)の「JALグローバルクラブ(JGC)」も同様の特徴を持つ。ただし、JALは2024年に新規入会条件を大幅に厳格化し、長期間にわたる搭乗などの利用実績が求められるようになった(日本航空, 2023; 日本航空, n.d.)。

両社は異なる改革方法を選んだ。JALが既存会員の資格を維持したのに対し、ANAは既存会員にも新条件を適用する。なお、ANAが長期間の特典継続を案内してきたことと今回の変更との関係は、企業と顧客の関係性として別途検討すべき問題であり、本稿では扱わない。

筆者は、既存会員の特典が縮小されること自体ではなく、国際的な資格維持条件の大きな格差を見直す方向に動いたという点で、今回のANA改革を評価している。 もっとも、改革後も原則として年間300万円の対象決済によって、毎年の搭乗実績なしにゴールド資格を維持できる。従来のカード保有型から、一定の決済実績を求める方式へ変わるものの、実際の搭乗実績と資格維持が必ずしも結びつかない点は変わらない。また、国際的な公平性の改善はANA自身が公表した改革目的ではなく、筆者による評価である。

国際的に共通する上級資格の取得・維持条件は、どこまで異なっていてよいのだろうか。個々の航空会社の顧客戦略と、国際制度全体の公平性をどう両立させるのか。こうした問いは、国境を越えた協力のルールを考えるグローバル・ガバナンスにも関わっている。一つのニュースを異なるアクターの立場から捉え直すことで、国内の議論だけでは見えなかった問題が浮かび上がる。そこに国際関係を学ぶ意義の一つがある。

ANAと同じスターアライアンスに加盟するニュージーランド航空。
加盟航空会社の上級会員資格は、国境を越えて相互に認められている (筆者撮影)

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i. 搭乗実績以外の方法で国際航空連合の上級資格を取得・維持する制度も存在する。例えば、オーストラリアではHSBC銀行とスターアライアンスが共同で、カード決済によってゴールド資格を得られる商品を導入した。ただし、これはANAのような航空会社独自の顧客優遇ではなく、銀行と航空連合による共同サービスであり、毎年の決済条件が設けられていた(HSBC Australia, 2022)。なお、このカードについては2026年にサービス終了が発表されている。

参考文献

三田 貴 教授
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政治学(未来学)、オセアニア地域研究、国際協力論、共生社会

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