師走に「大阪・関西万博2025」の「経済的効果」と「教育的効果」を考える
2025.12.25
明るい灯となった大阪・関西万博2025
2025年が間もなく終わろうとしている。国際情勢を思い返すと米トランプ大統領に世界が振り回された1年であった。相互関税や米中貿易などの「摩擦」、ウクライナ侵攻やガザ紛争への「介入」、イランやベネズエラへの「攻撃」など、国際情勢が独善的に分断・不安定化され、暗澹とした気分になる事象が多かった。
そんな中、日本、特に関西で明るい事象として注目されたのが大阪・関西万博2025(以下、万博とする)であった。日本漢字能力検定協会が京都の清水寺で毎年発表する「今年の漢字」は「熊」となったが、上位10位内には、「脈」(4位)、「万」(5位)、「博」(7位)と、万博・ミャクミャク関連が複数ランクインした。閉幕して2か月が経った今、改めて万博の意義を考えてみたい。本稿では「経済的効果」と「教育効果」という2つの視点からレビューを試みる。
「経済的効果」は1兆279億円
2025年日本国際博覧会協会によると、2025年4月18日~10月13日の184日間で、29,017,924人(関係者3,438,938人含む)の累計来場者があった。東京三菱リサーチ&コンサルティングの携帯電話位置情報分析(2025年11月13日)をベースにしたアジア太平洋研究所(APIR)の推計(2025年12月3日)によると、一般来場者の42.6%を地元大阪府が占め、関西地域(2府4県)では65.8%と、全体来場者の約7割が関西地域からであった。このことから万博は関西中心に大いに盛り上がっていたことが分かる。筆者が居住する京都府の来場者は約109万人と4.3%であった。人口規模が大阪府の3割程度であるにしても少々寂しい気がする。ちなみに筆者は合計で8回訪問し、しっかりと貢献をさせていただいた。
なお、海外からの来場者は約283万人と11.1%であった。これは博覧会協会が開催前に発表した想定来場者数の350万人よりは少なかったものの、1割以上が海外来場者であったことは一定の評価ができよう。万博会場内や周辺地では一般やビジネス向けの海外イベントが連日開催され、その度に多くのビジネスミッションが来日していた。この海外来場者は周辺のインバウンド消費にも貢献していることが容易に想像でき、実際、万博開催中は京都市内にも外国人が増えたような印象がある。
APIRの一般来場者消費の分析によると、大阪府在住者は1,433億円、大阪府以外の関西在住者は1,154億円、海外客は4,196億円、総額で1兆279億円の消費があった。海外客の主な消費は、買い物代(1,343億円)、飲食代(1,279億円)、宿泊費(1,116億円)と続き、宿泊を伴ういわゆるインバウンド消費が大きい。これら海外客からの経済的効果(発生需要額)を最も受けたのは、開催地大阪府で6,710.8億円であったが、次いで京都府が1,373.8億円(内飲食費443.2億円、宿泊費473.5億円)であった。京都府にも大きな経済的効果があったことが分かる。
世界とのつながりを考える教育現場となった万博
筆者は、万博を若者への教育面で活用できないか開催前からその機会を探っていた。万博はパビリオン訪問が主役であることに間違いはないが、海外の有識者が気候変動や生成AI、食糧問題など様々なテーマで世界情勢を議論する「テーマウィークセミナー」が連日開催されていた。そこで筆者のゼミ生をいくつかのテーマウィークセミナーに参加させ、一流の専門家の話を英語で聞かせ、後日レポートを提出させるなど、学びの場にすることを実施した。
また、万博内で開催された関西の地場産業活性化を提案する学生コンペティションにも参加させた。見事、「地域ブランド賞」を受賞した。さらには、海外パビリオンでのインターンも仕掛け、インターンに参加した学生は他の海外パビリオンの外国人とも交流を深めていった。これらの経験を経た学生たちは、一様に海外と日本の素晴らしい関係性に気が付き、国際人材になるためにはどんなスキルを身に付けなければならないのかを考える貴重な機会となった。実際、万博開催を契機に留学やワーキングホリデーを新たに考え始め、海外に飛び出していった学生もいる。万博の場は単に海外パビリオンを視察・体験するだけではなく、人と人の交流を生み、自身の将来やひいては日本の将来のことを考える素晴らしい教育現場となった。
ここで、ある学生の万博の感想を原文ママで引用したい。
「学生時代に行くことが出来たのが何よりも人生において貴重な経験。日本の未来について後ろ向きなことを最近考えることが多かったが、万博に来てから、日本の企業努力や技術のすごさ、可能性など「夢が広がるもの」を多く見ることができました」
万博は若者への投資であったとは言い過ぎであろうか。先に述べた経済効果よりもはるかに大きなリターンを万博は将来日本にもたらすであろうと筆者は確信している。
万博レガシーは次世代に託された
万博の閉幕が近づくにつれ、「万博レガシー」をどのように残すかという議論が盛んに行われていた。レガシーは大屋根リングや各国のパビリオン・展示品という「物質的」なものをイメージしがちだが、一番のレガシーは訪問した人々の記憶や意識に点在し、残り続ける「精神的」なものではないだろうか。
そのレガシーを意識したイベントが11月22日、京都市で開催された(EXPO KYOTO MEETING+)。大学生を中心とした若者グループが万博での学びを共有しつつ、将来京都で万博を開催するならばどのような万博にしたいかを発表していた。新たな施設は一切作らず京都の町全体を万博会場にして各地を空飛ぶ車でつなぐサステナブルなアイデアや、言葉の壁を乗り越えやすくするため世界中の踊りを共通テーマにするダイバーシティーなアイデアなどが飛び出していた。次世代を担う若者に万博でのレガシーは確実に深く刻み込まれており、世界とつながる日本、そして明るい未来を開拓しようとする力強さを感じた。
忘れられない大屋根リングからの風景
大屋根リングの上から万博会場全体を眺めた方も多いだろう。大きな円形の中に世界中の個性豊かなパビリオンが仲良く並び、笑顔にあふれる内外からの来場者たちの姿がそこにはあった。世界が分断・不安定化した2025年に、この風景が「平和への祈念」や米経済学者ボールディングが主張した「宇宙船地球号」の具現化に見えたのは私だけであろうか。
2026年が世界にとって良い年になりますように、師走の京都から願いを込めて筆を置く。
参考文献
- 日本漢字能力検定協会(2025),「2025年の「今年の漢字®」」,
https://www.kanken.or.jp/kotoshinokanji/former/2025.html,(2025年12月24日アクセス)。 - 2025年日本国際博覧会協会(2025),「来場者数と入場チケット販売数について」,
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20251014-01/,(2025年12月24日アクセス)。 - アジア太平洋研究所(2025),「大阪・関西万博の経済波及効果の検証」(2025年12月3日記者レク資料)。
- 大阪・関西万博きょうと推進委員会事務局(京都市産業観光局産業企画室)(2025),
「EXPO KYOTO MEETING+(プラス)〜NEXT STAGE 未来を描く、わたしたちのチカラ〜の開催」(2025年10月16日報道発表資料)。

植原 行洋 教授
国際ビジネス、欧州経済・産業、中小企業の海外展開
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