カシオペア座の新星では世界初! 太陽系起源の解明につながる特殊な低温度新星爆発を発見

2021.02.02

京都産業大学 神山天文台とアマチュア天文家からなる研究グループは、2020年7月に発見されたカシオペア座の新星を調査し、可視光極大付近の低分散分光スペクトルからC2分子およびCN分子の同時検出に世界で初めて成功しました。新星においては2014年以来史上2例目の検出成果で新星爆発のメカニズムだけでなく、太陽系の原材料の解明に期待されます。

リリース日:2021-02-02
 

本件のポイント

  • 京都産業大学神山天文台とアマチュア天文家からなる研究グループは、カシオペア座の新星爆発において世界で初めて、可視光極大付近の低分散分光スペクトルからC2分子およびCN分子の同時検出に成功。
  • 新星爆発におけるC2分子およびCN分子の生成は、2014年に京都産業大学神山天文台が世界で初めて発見した現象で、新星爆発においては今回が史上2例目の検出となる。
  • 今後、得られたデータなどから新星爆発で合成される炭素や窒素の同位体比を明らかにすることで、新星爆発のメカニズムを解明するだけでなく、太陽系の原材料の解明を目指す。
     

概要

京都産業大学神山天文台らの研究グループは、ロシアのKa-Dar天文台とモスクワ大学らの研究グループが2020年7月28日(日本時間)に発見したカシオペア座の新星を調査し、カシオペア座の新星では世界初、新星においては世界2例目となるC2分子(炭素分子)およびCN分子(シアンラジカル分子、炭素原子と窒素原子が結合した不対電子を持つ分子)の検出に成功しました。新星爆発におけるC2、CN分子の生成は、本学が2014年に世界で初めて発見した現象であり、新星爆発の爆発メカニズムの解明だけでなく太陽系の起源の解明にもつながる重要な研究となります(図1)。また、今回の観測には、岡山県在住のアマチュア天文家が大きく貢献しており、神山天文台における生涯教育の一環として行ってきた、学外・市民研究者の方との協働の成果でもあります。

背景

新星とは、二つの恒星が非常に近い間隔で互いに回りあう「近接連星系」と呼ばれる天体で起こる爆発現象です。この近接連星系を構成する二つの星のうち、一つは太陽のような普通の恒星ですが、もう一つの星は重さが太陽ほどでありながら大きさが地球程度(太陽の1/100程度の大きさ)と非常に小さい「白色矮星」と呼ばれる年老いた天体です。この白色矮星に相手の恒星からガスが流れ込み、白色矮星表面に一定量のガスが蓄積されると、白色矮星表面で「熱核暴走反応」と呼ばれる原子核融合反応が暴走的に生じて、極めて大量のエネルギー(熱)が発生します。こうして膨大なエネルギーを受け取ったガスは「巨大な火の玉」のように膨れ上がり、やがて、ガスを周囲に撒き散らすようになります。爆発当初、火の玉の表面温度は10万度を超えますが、膨張して火の玉が大きくなると次第に温度は下がり、新星が最も明るく輝く頃には1万度程度になります(その時には太陽の10倍以上の大きさにまで膨らんでいると考えられています)。 京都産業大学神山天文台では2014年に、新星の中には通常より大きく膨らんで更に温度が下がる特殊な新星が存在することを発見し、その新星では炭素原子が2つ結合したC2分子(炭素分子)と、炭素原子と窒素原子が結合したCN分子(シアンラジカル分子)を生成されることを世界で初めて明らかにしました。この発見により、新星爆発で生成された分子の元素同位体の存在比率を調べることができるようになり、過去に起こった新星爆発の放出物を材料の一部として、太陽系が作られた可能性が明らかになったものの、C2分子とCN分子が作られるほど温度が低くなる新星は非常に稀であるため、2014年の発見以降、同様の新星は1つとして発見されてきませんでした。

研究成果

京都産業大学神山天文台では、2014年以降、C2分子とCN分子が生成される新星の検出を目指 し、世界各地の天文台や観測者と協力して様々な新星の観測を行ってきましたが、C2分子とCN分子は、わずか1週間以内で分子生成の兆候が消え去ってしまうため、低温度の新星を発見するには至りませんでした(図2)。 そのような中、ロシアのKa-Dar天文台とモスクワ大学の研究者らによって2020年7月28日(日 本時間)に発見されたカシオペア座の中の新星について、岡山県在住のアマチュア天文家である 藤井 貢氏が藤井黒崎天文台の反射式望遠鏡を用いて2020年7月31日に初めて観測に成功しました (図3)。そして、2020年8月12日にカシオペア座の新星では世界初となるC2分子、CN分子の存在 を捉えることに成功しました。続く8月13日、14日における観測結果にも分子の存在の兆候が見つ かり、3日間程度でC2分子、CN分子が消え去ることがはっきり示されました。世界各地の天文台や 観測者と協力して様々な新星の観測を粘り強く続けた協働が実を結んだ成果です。本学神山天文台で は、観測データの解析や得られた結果の読み解き、サイエンスについてのアドバイスを行いました。

今後の展開

現在、世界の大望遠鏡で得られたデータなどについて同時に解析を進めており、今後、これらのデータから、新星爆発で合成される炭素や窒素の同位体比を明らかにすることで、太陽系をつくる原材料の謎の解明を目指します。

論文情報

タイトル Transient Formation of C2 and CN in the Near-Maximum Phase of Nova Cas 2020 (= V1391 Cas)
(新星V1391 Casの極大付近でのC2とCNの一時的な生成)
掲載誌 The Astrophysical Journal(アストロフィジカル・ジャーナル)
掲載日 2021年2月2日(火)(日本時間)
著者 藤井 貢  アマチュア天文家(岡山県)
新井 彰  京都産業大学
河北 秀世 京都産業大学

お問い合わせ先
内容について:京都産業大学 神山天文台 河北 秀世 教授
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
E-Mail: kawakthd@cc.kyoto-su.ac.jp

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