「歴史的中国経済周期」論から読み解くニーダムパズル

報告者 趙 強(大連工業大学 講師)
開催場所 京都産業大学 11号館11201教室+オンライン(Teams)
開催日時 2025年2月5日(水)15:00~17:00

研究会概要

2025年2月5日(水)の定例研究会では、大連工業大学の趙 強 講師が「『歴史的中国経済周期』論から読み解くニーダムパズル」と題とする研究報告を行った。

「ニーダムパズル」(Needham, 1954、1969)とは、イギリスの中国科学史研究者であるジョゼフ・ニーダムからの問題提起である。ニーダムによれば、紀元前1世紀から紀元後15世紀の宋時代まで、中国の科学技術の水準は世界の中でより進んでいたにもかかわらず、近代においては科学技術だけでなく経済社会の水準はヨーロッパより遥かに遅れをとることになった。それはなぜであろうか。その要因は未だに解明されていないが故に、ニーダムの問題提起はパズルとして残されている。

趙 強 講師は「歴史的中国経済周期」という観点から、このパズルの解明に取り組む報告を行った。「歴史的中国経済周期」とは、岑(2021)が初めて示した中国の漢時代からの自律的な経済周期のことである。そのような観点に基づけば、19世紀後半から20世紀1940年代までの中国は「歴史的中国経済周期」における「マルサスの罠」に陥ったため、「ニーダムパズル」のような現象が見られていた。「マルサスの罠」に陥った要因については、趙 強 講師は以下のように分析している。

第1に、15世紀以降にみられた西欧近代科学の発展の要因が、商業と手工業の発展に伴い、商人が技術進歩を通じて更なる利潤を追求したことであるのに対し、古代中国の皇族・官僚・地主などの富裕層は地代や貸金業を通じて安定した収益を得ることが可能であったため、技術の進歩を促す動機はなかった。彼らにとっては社会の安定維持と農業生産量の向上こそが自らの利益を保証する重要な要素であった。第2に、古代中国は停滞していたのではなく、周期的に発展を成し遂げていた。古代中国経済は「緩やかで安定的な歩み」をトレンドとして示しながら、各王朝は経済周期として循環を続けている。例えば、史料が示す通り、宋代は上昇期・安定期・衰退期という完全な経済周期を経験したことが分かる。19世紀後半の清代時代では、欧米帝国主義等による外来侵略により、さらに衰退期を長くさせた。

以上のような報告がなされた後に、マックス・ウェーバーやピケティによる研究の成果などと比較する観点から、質疑応答が活発に行われた。

参考文献
  1. Needham, Joseph(1954)Science and Civilization in China .Volume1 ,Cambridge University Press
  2. Needham, Joseph(1969) The Grand Titration: Science and Society in East and West ,Allen & Unwin
  3. 岑智偉(2021)「『歴史的中国経済周期』から読み解く『一帯一路』」岑智偉・東郷和彦編著『一帯一路:多元的視点から読み解く中国の共栄構造』第1章、晃洋書房。
報告中の趙講師
質疑応答の様子