「地域における人と自然の関係——農的活動が野生生物に与える影響——」

報告者 三瓶 由紀(生命科学部 准教授)
開催場所 京都産業大学 12号館 12403教室+オンライン(Teams)
開催日時 2024年1月24日(水)15:00~17:00

研究会概要

世界問題研究所では、2024年1月24日(水)に、本学生命科学部産業生命科学科の 三瓶 由紀 先生をお招きし、ハイブリッド形式で定例研究会を実施した。ご報告のタイトルは、「地域における人と自然の関係——農的活動が野生生物に与える影響——」であった。

三瓶先生のご報告は、研究参画されたタイ・バンコクにおける土地・農地開発と野生生物の生態(特にシロスキハシコウの生息状況)に焦点を当てたものであったが、自己紹介の後、まず研究の背景と目的に関する説明があった。調査対象とされたシロスキハシコウとは、インドからベトナムにかけてのアジア地域に生息するコウノトリ科の鳥で、タイでは当時約22万羽の生息が確認されていたとのことである。三瓶先生は、バンコク郊外の市街地と農地が混在する地域の現地調査をもとに、土地開発や農地開発がシロスキハシコウの生態や生息状況に与える影響を分析された。現地調査にあたっては大きく、1)GISを活用した土地利用変化の把握、2)ラインセンサス法による生息分布状況の把握、3)地域住民へのインタビュー調査による生息状況、営農状況の把握、を実施されている。

研究の結果、シロスキハシコウは、バンコク近郊の土地開発・農地開発により生じたモザイク的な湿地環境に順応し、生息数を増やしていることが明らかになった。なお、地元住民へのインタビュー調査では、多くの方がシロスキハシコウの増加を歓迎していることも窺えた。シロスキハシコウが農作物に対して特にマイナスの影響を与えないこと、害獣とされるジャンボタニシを捕食してくれることなどがその主な理由であるとのことである。先生のご研究は、生物多様性の保全と社会・経済活動のサステナブルな関係に関して、新たな可能性を提示するものであった。

ご報告の後は、参加者との間で質疑応答が行われた。学生と所員を含む参加者からは、それぞれの専門分野に根差した質問やコメントがあり、活発な議論が展開された。具体的には、「コウノトリに関して、日本では過去の狩猟等により絶滅の危機にあるが、タイでは何らかの規制のようなものはあるのか?」「タイ政府には、持続可能性という観点や生態系を維持しようとするポリシーはあるのか?」「シロスキハシコウの食物連鎖上の位置づけはどうなっているのか?」など種々の質問が出された。また「なぜ調査地としてタイを選んだのか?」という質問に対する回答の中で先生は、「野生生物(鳥)の側が、人間が作った環境を活用し順応しているという事実から、野生動物は私たちが考えている以上にしたたかな存在である可能性や、人間が好む環境を野生動物も好む可能性を想定しておく必要がある。生態系や生物多様性の保全と土地開発は必ずしも対立関係にあるのではなく、人間によって作られた場所や空間が人間と野生生物の接点となる場合もありうる」といった内容の見解を示されたが、これは人間社会と野生生物を含む自然環境の関係を考える上でも、大変示唆に富むものであった。

報告中の三瓶准教授
議論の様子
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