「感性情報学:人を幸せにするための情報技術」

報告者 荻野 晃大(情報理工学部 准教授)
開催場所 京都産業大学 14号館 14108セミナー室1+オンライン(Teams)
開催日時 2022年1月31日(月)15:00~17:00

研究会概要

報告中の荻野准教授
世界問題研究所は本年度の第8回定例研究会をハイブリッド方式で1月31日に開催した。今回の研究会には本学情報理工学部の 荻野 晃大 先生をお招きし、「感性情報学:人を幸せにするための情報技術」と題したご報告を行っていただいた。

ご報告ではまず、感性情報学が「感性」をどのように把握し定義しているのかが紹介された。荻野先生によれば、感性とは「知覚により得られた対象や環境に関する情報を、各自の学習と経験に基づいて整理・統一して、印象評価や感情・態度形成をおこなう心のはたらき」として捉えることができ、知覚した情報に対する個々人の感覚器官の反応だけに規定されているのではなく、個々人がそれぞれ形成してきた評価基準にもとづいて判断される主観的な価値づけとして理解できるという。

そして、そのように理解できる感性をモデル化することで、各個人の感性に適応し幸せな状態をもたらす情報サービスやスマート製品の設計を目的とする学問となるのが感性情報学ないし感性工学になるとの解説がなされた。なお、モデル化とは、サービス(体験)やモノ(製品)の特徴(色や形など)とそれらに対する各人の生体反応(脈拍や発汗など)、そして感性(印象、興味、嗜好)との間の対応関係を工学的に解明することを意味するという。だから、感性情報学・感性工学は生理学や心理学に統計学などの成果を組み込んだ学問になり、そうした諸学の融合を経て、人が快適と感じるプロダクトデザインやヘルスケア、エンターテイメントの支援などに取り組んでいる。そうした話が、「午後の紅茶」のボトルデザインなどを具体例として紹介しながら、展開された。

さらに、各個人の感性をモデル化する「感性を知ること」だけでなく、各個人が感性を磨いて「感性を広げること」の支援も、テクノロジーを用いて人を幸せにする感性情報学の挑戦課題になると考えられるとの説明が行われた。そして、荻野先生自身が取り組んできた研究の事例として、「感性を知ること」に関しては、各個人の感性をモデル化して各々に適した服飾コーディネートを提案する仕組みの研究が、「感性を広げること」に関しては、各個人の感性が固定的にならないようにポジティブに変化させる仕組みの研究などが、詳しく紹介された。

以上のようなご報告の後、質疑応答に移った。質疑応答では、各個人を対象とするディープデータの処理に関する質問が出され、どのような分析を行っているのか補足説明が行われた。また、「幸せ」をどのように捉えるのか、快・不快といったレベルなのか、もっと深遠なレベルの幸福感まで射程に入れるのかといった議論が、仏教哲学の知見なども参照されながら行われた。さらに、服飾コーディネートの研究から分かったこととして、モデルの適合率が高くても提案通りに購買するとは限らないといった点に関して、他の動物とは異なり単なる快・不快だけでは動かないのが人間らしさではないか、といった議論が繰り広げられた。
報告スライドより
PAGE TOP