「グローバル化にともなうミツバチの大量失踪と外来種による生物多様性への脅威」

報告者 高橋 純一(生命科学部 准教授)
開催場所 オンライン(Teams)
開催日時 2021年11月24日(水)15:00~17:00

研究会概要

高橋准教授
世界問題研究所は本年度の第7回定例研究会をオンラインで11月24日に開催した。今回の研究会には本学生命科学部准教授の 高橋 純一 先生をお招きし、「グローバル化にともなうミツバチの大量失踪と外来種による生物多様性への脅威」と題したご報告を行っていただいた。世界問題研究所のメンバーに加え、高橋先生の授業を受講している学生の参加もあり、参加者が100名以上にも及ぶ大規模な研究会となった。

高橋先生は、分子(行動)生態学や応用昆虫学(養蜂学)、保全遺伝学を専門とされており、基礎研究としてハチの仲間を中心とした生物種の生態や多様性を遺伝子レベルで解明する活動に取り組み、応用研究として生物保全や農業における実用技術の開発に取り組んでおられる。そのうちご報告では、基礎研究を中心として、生物多様性の損失に関する問題が取り上げられた。具体的には、生物多様性の圧倒的大半を占めている昆虫のなかで、2006年頃から世界中で大量死・大量失踪が報告されるようになったミツバチの生態が取り上げられた。そのご報告の概要は以下の通りである。
ミツバチとヒトの付き合いは1万年以上前からあると確認されており、古代エジプトの遺物などからミツバチの家畜化やハチミツの採集が紀元前から行われていたことが分かっている。さらに、大航海時代になると養蜂は世界中に広まった。日本では古くから在来種のニホンミツバチを使った伝統養蜂が細々と行われてきたが、明治期にセイヨウミツバチが導入され、セイヨウミツバチを用いる近代養蜂が主流をなすようになった。また、ミツバチは1個体が多くの花に訪花するため受粉効率が良く生態系の中で優秀なポリネーター(花粉媒介者)となるので、日本を皮切りに農作物の受粉のために利用されるようになり、農業の低労力化・コスト削減だけでなく、農作物の品質向上にもつながっている。しかし、近年ではミツバチの減少がみられ、世界の食糧生産計画の大きなリスク要因となっている。

その減少の原因について、高橋先生の研究グループは病原性微生物の影響ではないかと考え、ミツバチに寄生するダニが媒介するウイルスがミツバチの大量死を招いていることを突き止めた。また、大量死を招く感染性・致死性の高いウイルスは、世界中で普及したセイヨウミツバチが感染するウイルスと、在来種のミツバチが感染するウイルスとが、ダニの体内で出会い遺伝子交換が起きて変異型として生まれたと推定できることも明らかにした。高橋先生は他にも生物多様性に影響を与える外来種の侵入経路を遺伝子解析によって推定する研究に取り組んでおり、具体的にどのような研究例があるのかご紹介がなされた。

以上のようなご報告の後、質疑応答に移った。質疑応答では、ニホンミツバチを用いた養蜂による地域振興の将来性について質問が出され、高橋先生からはニホンミツバチの飼育の困難さやセイヨウミツバチとの併用・共存可能性について解説が行われた。また、途上国における社会発展と環境保全の両立可能性に関しても質問が出され、高橋先生からは生物多様性が確保されていて無農薬であるブラジル産のハチミツなどだと日本産の10倍以上の高価格でアメリカや中国の富裕層に購入されており両立する余地があるとの解説が行われた。
高橋准教授提供
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