「異常気象の原因としての偏西風の蛇行」

報告者 高谷 康太郎(理学部宇宙物理・気象学科 教授)
開催場所 京都産業大学 万有館 B211セミナー室およびオンライン(Teams)
開催日時 2021年7月13日(火)12:20~13:05

研究会概要

報告中の高谷教授
世界問題研究所は本年度の第4回定例研究会を7月13日にハイブリッド方式で開催した。今回の研究会には本学理学部 宇宙物理・気象学科 教授 高谷 康太郎 先生をお招きし、「異常気象の原因としての偏西風の蛇行」というタイトルのご報告を行っていただいた。

ご報告ではまず、データに基づいて日本の冬季の異常気象が具体的にどのようなものであるのかが示された。そして、そのような異常気象が起こるメカニズムについて、データの解析の様々な図を用いて説明が行われた。ご報告の大意は以下の通りである。

日本付近の冬季気候に重要な役割を果たすシベリア高気圧の形成メカニズムについては、「ユーラシア大陸の放射冷却によって地表の空気が冷却され、寒冷な高気圧が形成される」といった説明がしばしばなされてきた。しかし、放射冷却だけでは2週間単位や1ヶ月単位、さらには年単位における寒気の大きな変動を十分に説明できない。そこで、データに基づいた解析を行った結果、シベリア高気圧や寒気の変動には、ユーラシア大陸上で発生する上空偏西風の蛇行が密接に関連している事が判明した。すなわち、ヨーロッパからの偏西風が南北に蛇行すると、極東付近で北風が強化されて大陸上に寒気が形成され日本に寒気が襲来すると考えられる(年単位の変動に関しても、微妙な違いはあるが、同様のパターンが確認できる)。この偏西風の蛇行が、日本付近の冬季気候における異常気象発生の基本的なメカニズムである。実は日本冬季に限らず、世界各地の異常気象の発生には偏西風の南北蛇行が決定的に重要である。ただし、偏西風の蛇行の原因については様々な議論がある。現状では、どのような蛇行パターンになるのかは把握できても、なぜそうなるのかが説明できない事がほとんどである。気象については、意外と基礎的なことが分かっていないのである。また、ある地域の異常気象は他の地域の異常気象とも連動しながら昔から発生しているので、地球温暖化のような近年生じている気候変動だけで説明できるわけではない。異常気象そのものについて十分説明できるようになるためには、偏西風の蛇行のメカニズムをさらに解明していく必要があり、今後の研究課題となっている。

以上のようなご報告の後、質疑応答に移った。質疑応答では、気象研究と歴史研究がむすびつく可能性などについて質問が出された。高谷先生からは、両者をむすびつけられると面白いし自分も興味関心を持っているのだが、過去の記録が十分には残っていないので定量的に研究できないのが残念であるとの応答がなされた。

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