国連専門機関における事務局のイニシアティブ—ユネスコを事例とした機能的アプローチからの考察—

報告者 中岡 大記(世界問題研究所 研究補助員)
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
開催日時 2019年10月30日(水)16:00~18:00

報告概要

1980年代に、国連専門機関(Specialized Agency)のひとつであるユネスコから米英が脱退した。しかし、その後、イギリスが1997年に、アメリカが2003年に復帰している。本報告では、ルーマニア出身の思想家デイヴィッド・ミトラニー(David Mitrany)によって提示された機能的アプローチを分析枠組みとすることで、なぜ米英は脱退し、なぜ復帰を果たすことができたのか、そこにユネスコ事務局はどのような役割を果たしたのか、ということを明らかにする。
ミトラニーの議論の要諦は、「政治的なもの」と「非政治的なもの」の分離にある。国際機構を適切に運営していくためには、例えば外交官や政府代表ではなく技術専門官によって職務が担われるなど、可能な限り「政治的」な状況を排し、「技術的・行政的」な問題を取り扱うことが求められる。
1980年代のユネスコは、その点において政治的な論争が活発に行われ、事務局も政策形成過程を通して、その政治的な論争を助長してしまった。アメリカは脱退理由として4つの政治化された問題を挙げていたが、1990年代および2000年代にかけて、これらの諸問題は「脱政治化」されていった。
米英脱退直前には、例えばNWICO(新世界情報コミュニケーション秩序)という問題に関して、南側諸国と東側諸国vs西側諸国という構図で、特にこの概念の定義などを巡って政治的な論争が続いていた。しかし、事務局長が代わってからは、この問題へのアプローチが変化した。すなわち、概念に関する論争から、情報設備の拡充や人材教育という具体的で、行政的で、技術的な問題に転換して、処理するようになったのである。
このような事務局の「脱政治化」に向けたイニシアティブが功を奏し、米英復帰の要因となった。このようなイニシアティブの在り方は、今後の国際機構の適切な運営にとっても重要な示唆を与え得るだろう。

報告中の中岡研究補助員
質疑応答の様子
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