日本企業の経済観 —「国益」と「私益」の観点から

報告者 東野 裕人(世界問題研究所 客員研究員)
開催場所 京都産業大学 上賀茂総合研究館 1階会議室
開催日時 2018年9月7日(金)14:00~15:30

はじめに

「国益と政府」(『日本人の経済観念』武田晴人著 第5章)での議論を中心に据え、近代以降の日本における国益と私益、あるいは、国家と私企業との関係を経済史的に考察し、「私」としての経済活動と「公」としての国・政府活動という単純化された二分法的思考を超克する。

国益とナショナリズム

戦前・戦後を通じて、日本における企業活動は国益志向が強いと認識されており、経営ナショナリズムを標榜した渋沢栄一はその典型とされてきた。しかし、明治時代の青年は立身出世を目指してはいたが、それを国家利益に結びつけて考えてはいなかった。
また、「国益」概念は、今日使用される政治的意味ではなく、経済的概念として用いられ、ナショナリズムを構成する要素は希薄であったという。「国益」は「私益」に対立する概念ではなかったし、企業家は私利の追求を通じて、国に貢献しているという意識を持てる経済観すら存在していた。しかし、昭和に入ってからの財閥批判にみられる「私利の追求」に対する世論の批判は、それまでの「国益」意識との間に亀裂を生むことになる。

貿易立国の追求と政府

1950年前後に貿易立国が標榜されるが、国民所得に占める輸出の比率は、戦前に比べるとはるかに低く、日本経済の発展メカニズムに関しては、「外貨の制約」という危機意識、「貿易立国」という目標設定に制約され続けていた。 一方、「政府」は「国民生活」の向上には関心の薄い、国民に冷たい政府であったと武田教授はいう。「貧困な国日本」という認識のもと、輸出拡大にまい進する姿が戦後日本の原型であり、国民生活の向上を犠牲にしても輸出拡大を政府は公言していた。
この思考が改めさせられたのが、1980年代の外圧による内需拡大である。「貧困な国日本」という自己認識が「経済大国」へと変わりはじめ、企業も競争力に自信を持つようになり、「政府からの自由」を求めるようになった。それが、規制緩和の流れを生む。つまり、外圧による内需拡大と内圧による規制緩和が、1980年代に突然踊り出ることになった。

おわりに

外圧による内需拡大や内圧からの規制緩和等も合わさり、1980年代にバブル経済が生じ、その後「国」と「私」の関係も大きく変わることとなった。
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