グローカリズムとヨーロッパ市民社会

報告者 中谷 真憲(法学部 教授)
開催場所 京都産業大学 上賀茂総合研究館 1階会議室
開催日時 2018年9月7日(金)17:00~18:30

はじめに

本報告は、欧州におけるポピュリスト政党の台頭に対して、グローバリズムvsナショナリズムの構図で語られる現状を、その歴史的背景としての「第三の道」の限界を論じつつ、新たなアルタナティブとしての「グローカリズム」を考察するものである。

グローバリズムかナショナリズムか

欧州において、イギリスのEU脱退(Brexit)、フランスのFN(国民戦線)・ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)・イタリアのM5S(5つ星運動)の台頭、そしてまた東欧でも見られるように、欧州各国におけるポピュリスト政党が伸長し、アンチEU・アンチ移民などの形をとって、一国主義への接近を見せている。
その背景には、移民問題(EU内移民・EU外移民)、リーマンショック後の若年層の失業がある。このような状況に際し、アメリカではトランプがアメリカ・ファーストを掲げ、政権を担うこととなった。またEU各国においては、少数派であった右翼諸政党が伸長する例が相次いだ。
しかし、右翼政党の台頭以前の欧州各国では、中道左派右派いずれであれ、社会民主主義路線を基調とする政権がむしろ主流であった。では、その転機はどこにあったのか。

第三の道は今でも有効か

アンソニー・ギデンズは、イギリス労働党ブレア政権(1997-2007)のブレーンとして、サッチャー政権で進められた新自由主義に、公正・機会の平等を志向した社会民主主義路線を組み合わせた「第三の道」を掲げた。イギリスのみならず、ドイツの社会民主党シュレーダー政権(1998-2005)における「新たな中道(die neue Mitte)」など、1990年代後半に欧州各国で社会民主主義路線を標榜する政権が相次いで誕生した。フランスは、シラク大統領率いる共和国連合(RPR・UMP・LR)とジョスパン首相の社会党(PS)による第3次コアビタシオン(1997-2002)が全体として左右のバランスを取ったが、もともと新自由主義・新保守主義が根付かない国である。
しかし、2005年ごろを境にポピュリスト政党が台頭し始めるようになった。この背景だが、社会民主主義はネーションの一体性を前提としていたが、”We are the 99%”のスローガンで有名なウォール街のオキュパイ運動に代表されるように、経済・情報がボーダレス化する中で、「想像の共同体」としての国が分断される状況になってきたためではないか。

グローカリズムの台頭

このように、ポピュリスト政党の台頭は、1990年代以降の中道路線が限界を迎え、そのアルタナティブを見いだせていないところにあるようにも思える。しかし、今日、第三の道でも、グローバリズムでもナショナリズムでもない選択肢としての「グローカリズム」が台頭してきている。 グローカリズムは、グローバルの対立軸としてナショナルを見るのではなく、地域(local)に関心を寄せる。経済を軸に考えてみると、リーマンショックや金融排除の議論がグローバル化に対する反感を誘い一国主義的な思想・運動へと帰着する一方で、グローカリズムは、例えば、コミュニティバンクを通じた地域の再発見に着目する。欧州では地域金融の仕組みとして、Global Alliance for Banking on Values(GABV)がある。GABVはオランダのトリオドス銀行に本部を構える、持続的な経済・社会・環境の発展に取り組むために資金を融資する銀行の独立したネットワークであり、NPO法人などにも積極的に融資を行い、地域の持続的な発展を支えるコミュニティバンクとして機能している。
そしてまたこうした動きは、環境・社会・ガバナンスに配慮したESG投資が国連によっても提唱されているように、グローバルな広がりを見せている。

おわりに

このように、グローカルなレベルで、グローバリズムとナショナリズムの対立として理解されてきたものとは別の動きが生じているが、日本においては、このような動向がいまひとつ機能していない。ひとつには、そもそも融資先となるNPOが少ないという問題もある。コミュニティバンクやESGの枠組みをうまく制度化することが今後の課題となってくるだろう。
報告中の中谷教授
質疑応答の様子
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