世界問題研究所・AAGS共同研究会

2018年3月3日(土)および4日(日)、京都産業大学神山キャンパスにて、世界問題研究所とアジア・グローバル・スタディーズ学会(Asia Association for Global Studies)の共催で「ポスト真実の世界におけるポピュリズム:学際的な視点からの考察(Populism in a Post-truth World: A Multidisciplinary Conference)」と題した国際研究会を開催した。

1日目は、ポピュリズム全体に関する概念やその動向に関するセッションが行われた。Ling-Yi Huang(Linnaeus University, Sweden)からスウェーデンにおける移民排斥感情の高まりと、Twitterを中心とする社会メディアがそれをいかに拡散したのかという議論が行われた。同じくポピュリズムの台頭とメディアの役割について、Rab Paterson(Toyo University, Japan)から、スコットランドにおける「フェイクニュース(fake news)」の報道と、それがポピュリズムをいかに刺激するのかについての報告が行われた。続いてJames I. McDougall(Shantou University, China)から技術革新とポピュリズムについての相関性が検討された。
Saad Ullah Khan(Manipal University, India)からは「プロパガンダ」という視点から、ポピュリズムとプロパガンダという概念がどのように関係しているのか、そしてメディアがその両方をいかに社会に拡散しているのか検討がなされた。Julian Piggot(Ryukoku University, Japan)からは、メデイアがどのように大衆の言説を形成しているのか、自由貿易と資本主義、多文化主義と移民政策を事例とした報告がなされた。
Jeremy Brenningstall(University of California Berkeley, USA)からは、中国におけるポピュリズムの台頭について報告がなされ、Joff.P.N.Bradley(Teikyo University, Japan)からは人種差別とポピュリズムとの関係性という視点が提示された。Richard Forrest(Hijiyama University, Japan)からは、グローバリゼーションによって、市民がいかなる情報にアクセスすることも可能なこの時代にあって、ポピュリズム政党が掲げるプロパガンダやポスト真実の言説以外の情報に市民がアクセスすることにより、ある種ポスト真実の時代に終止符を打てるのではないかという視点が提供された。 最後に、東郷 和彦(世界問題研究所長)が基調講演を行った。自国第一主義が広まる現況を整理した上で、ポピュリズムというが、それを超える「真実」を追求することこそ今必要とされる研究ではないかと問題提起した。京都学派の「絶対無」と「霊性的自覚」を切り口に、12世紀鎌倉仏教、縄文に遡る神道と天台本覚思想の融合について述べ、排他主義に陥るのではなく、一旦すべてを受け入れ、省察を通じた創造を行い、普遍的な何かとして外に拓いていくような発想を紹介し、そのような発想に立って、現下の日本外交の最も困難な課題である、北朝鮮・ロシア・中国問題への対応を考えることも可能ではないかと述べた。

2日目は、ポスト真実・ポピュリズムを多角的に検討する報告が行われた。まず、Thomas Osborne(University of Bristol, UK)から、ポピュリズム及びポスト真実という概念を、リベラリズムの概念から整理する試みがなされた。Jonathan O’Donnel(Aoyama Gakuin University, Japan)からは、宗教と政治、そしてポピュリズムについて検討した報告が行われた。
Patrick Strefford(Kyoto Sangyo University, Japan)は、国際関係論の関連から真実と虚偽が国際関係学理論においてどのように扱われたかを検討した。Pete Kutchera(Don Honorio Verntura Technological State University, Philippines)からはフィリピンにおける、アメリカ人とアジア人の両方の両親を持つ子供であるアメラジアンを事例に報告がなされた。William Ashbaugh(State University of New York College at Oneonta, USA)からは、気候変動問題とポスト真実をめぐる報告が行われた。
Sandra Fahy(Sophia University, Japan)からはポスト真実とポピュリズムの台頭が、エリートにより腐敗した政治に不満を持つ一般大衆のある種の正義感と、現状の不況や失業を始めとした経済的不安感、そして移民によって奪われる雇用と移民に対する敵対心という様々な要因によって引き起こされたものであるという分析がなされた。

これらの報告を受け、全体議論では、今回議論の対象となった殆どの事例は米国と欧州を始めとする先進国であり、今後、アジアを中心とする地域にまで目を広げて見る必要があるという認識が示された。

基調講演を行う東郷所長
会場の様子
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