アベノミクスと日本財政を巡る課題

アベノミクスと日本財政を巡る課題

報告者 小黒 一正(法政大学経済学部教授)
開催場所 京都産業大学 5号館 ミーティングルーム1
開催日時 2017年9月27日(水)16:30~18:00

はじめに

現在の日本財政の現状として、生産年齢人口が減少し、社会保障費が年2兆円程度増加している。とりわけ社会保障給付費と社会保険料収入のギャップが2009年以降顕著になっており、債務膨張の主要因となっている。そのような課題を抱える中で、現在の日本財政を分析し、どのような策を講じる必要があるのか、これを検討する。

金融緩和でインフレは達成できるのか

日本の場合、CPI(消費者物価指数)を前年比で見てみると、サービス部門の上昇率が低く、中でも、保育所保育料、介護料、病院サービスなどは価格統制があるため、上昇が期待できない。そのような構造の中で、金融緩和でインフレは達成できるのかを問う必要がある。
日銀の主な運用資産の利回りは、例えば長期国債で2010年度上半期の1.1%から2016年度上半期の0.4%に下がるなど、全般的にほぼ半減している。また、とくにデフレ脱却後には金利正常化の過程で逆ザヤが生じ、貨幣発行益などでカバーできない場合、その損失分を国民負担として処理しなければならないリスクもある。ただし、金利上昇の過程で損失分が償却される可能性もあり、最終的にどうなるかは現時点では判断できない。

日本銀行が国債を買うことの意味

金融政策は資産の「等価交換」で、日銀が買い取る国債を支えているのは主として国民の預金(国内貯蓄のストック)である。従って、もし金利が正常化する中で、市場金利との比較で、「超過準備」の付利を適切な水準まで引き上げずに抑制する場合、政府部門と日銀の統合政府でみると、預金課税を行っているのと実質的に同等である。また、「超過準備」の付利を適切な水準にまで引き上げる場合、統合政府で見ると、「超過準備」は実質的に国債発行(短期国債の発行)と概ね同等となる。従って、日銀が国債を買い切っても、国民負担なしに財政再建は不可能である。
そのように考えると、金融政策などを行ったとしても、最終的には財政の問題に帰着すると言える。

日本財政の今後

財政政策は、当然のことではあるが、政治的なタイミングが関係している。2019年10月に消費税増税を見込んでいるが、2019年度の予算案の編成は2018年12月にあり、増税の判断はこれまでに行われる。また、2019年夏には参議院選挙を控えており、増税が政治的に可能かどうかは疑わしい。さらに、景気循環を外挿的に予測すると「谷」の時期に入り、国の税収は7年ぶりに下振れ(2.1兆円)し、2016年度決算では前年度比で0.8兆円減少しているという状態にある。
債務が今後どうなっていくのかがポイントとなるが、ドーマー命題をもとに債務残高(対GDP)の収束値を、仮に名目GDP成長率を1%程度で、財政赤字のGDP比を4%超として計算すると、400%超となり、現在の債務の倍となる可能性がある。
これらのことに鑑み、日本財政の今後は非常に厳しい状況にあると言わざるを得ない。

今後の課題

内閣府の中長期試算は2025年までの予測を出しているが、たとえば2050年といった、さらに長期的な予測に基づいた政策議論を行っていく必要がある。例えばOECD諸国では2000年以降、独立財政機関(Independent Fiscal Institutions)の設立が相次いでいる。日本銀行は日本の金融政策を決定しているが、独立財政機関は財政政策には立ち入らず、あくまで予測のみを行い、政治的に中立的な活動を行っている。そのような機関が日本にも必要なのではないか。
また、具体的な政策提言としては、例えば医薬品への保険給付を重要性に応じて配分を変更するということが考えられる。
小黒 教授(報告の様子)
質疑応答の様子
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