望ましい企業統治のあり方に対する考察

報告者 沈 政郁(本学経済学部准教授)
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
開催日時 2017年6月28日(水)16:30~18:00

発表概要

はじめに

ここ数年、シャープ、東芝、タカタと日本の大企業の失敗が続いていて、それに伴って日本企業の企業統治(Corporate Governance)のあり方が問われている。本日の発表では、アメリカと日本の企業統治の違いを整理し、現在進行中である企業統治の改革の中身を精査するとともに、日本における望ましい企業統治のあり方とはどのようなものなのかについて報告する。

企業統治

今日の報告では、企業統治は「所有と経営の分離の下で、企業価値の最大化を実現させるように、経営陣を監視する何らかのメカニズム」と定義する。これには、大きく分けて企業の外の力を利用する考え方と企業の中のメカニズムを利用する考え方がある。企業の外の力としては大株主の存在 (Activist)、企業支配権市場 (The market for corporate control) を挙げることができる。また、企業の内部の力としては、役員の報酬体系 (Compensation package)、内部統治システム (Board of directors) などが代表的なものである。
アメリカの活発な企業買収市場や物言う株主に比べて、日本は最近まで消極的な企業買収市場と物を言わない株主が特徴であった。また、アメリカの株式価値と連動させる報酬体系 (Stock option) や外部取締役中心のボードに比べて、日本は終身雇用を前提にした年功序列と内部取締役中心のボードが特徴である。このように、アメリカと日本の企業統治の姿は全く異なるのである。
最近の度重なる企業の不祥事と失われた20年を背景にして、日本では企業統治の改革が進められている。その流れとして、東京取引証券所では社外取締役または社外監査役を、最低1名を置くようにルールの変更がなされていて、独立社外取締役を選任している上場企業の比率は右肩上がりで上昇し、2016年では97.1%にまで達している。

社外取締役の数に与える要因

本報告では、上場企業が選任する社外取締役の数は、どのような要因によって決定されるのかを考察する。日経225企業を対象に、2009年から2015年までの動きを考察したところ、次のような結果が得られた。2及び3は、全独立取締役を経営経験がある人とそうでない人に再分類したものである。

要因 全独立取締役 2.経営経験者 3.非経営経験者
外国人持ち株比率 増える 増える 影響なし
銀行持ち株比率 増える 減る 増える
社長持ち株比率 増える 増える 増える
ROA 減る 減る 影響なし
企業規模 増える 増える 増える
子会社数 減る 減る 増える
研究開発投資額 増える 影響なし 増える

結論と今後の課題

得られた結果は、本当に企業が必要な人材を獲得しているのではなく、形の上で外部取締役をルールに沿う形で採用しているのではないかということであった。ただし、日本の場合には、アメリカと異なり経営者の労働市場 (Managerial labor market) が発達しているわけではないので、このような結果になるのは自然なものであると捉えることもでき、単にアメリカ型の企業統治を真似するだけでは上手く機能しない可能性が高いといえるだろう。日本の思想や文化、社会形成の観点から日本型の企業統治を模索する必要があると思う。
報告中の沈准教授
研究会の様子
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