2016年プーチン大統領の訪日とこれからの日ロ関係

報告者 東郷 和彦(世界問題研究所長・法学部教授)
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
開催日時 2017年1月11日(水)16:30~18:00

発表概要

はじめに

2016年12月15日に日ロ首脳会談が行われた。多くの国内メディアでは領土問題解決への期待から今回の会談を「失敗」ないし「失望」と評価する声が強く上がったが、「交渉の道筋」ができたかどうかという観点から捉え直すことで異なった評価が浮かび上がってくる。

プレス発表された首脳間合意

共同記者会見と、その開始後に使用できるプレス向け声明からは次の4つのエッセンスを挙げることができる。

  1. 元島民の墓参手続きについて、追加的な一時的通過点の設置及び現行手続きのさらなる簡素化を含む、ありうべき案の検討。
  2. 四島における共同経済活動に関する協議の開始。
  3. 安倍総理「過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにウィンウィンの関係を築くことができる。北方四島の未来像を描き、その中から解決策を探し出すという未来志向の発想が必要」
  4. プーチン大統領「この島は安倍総理の計画を実現するのであれば、日本とロシアが争う島でなくて、反対に、ロシアと日本を結びつける島にすることは完全に可能である」

これまでの交渉との違い

たとえば 1.にしても 2.にしても、これまでにも同様の活動が実施されてきたのであり、再確認に過ぎないといった見方もある。これまでの墓参や共同経済活動は、四島の主権交渉が進行している間の言わば例外措置として考えられてきた。しかし、今回の合意において「共同経済活動」は「四島の主権交渉を成功させるための重要な一歩」と位置付けられるようなった。
すなわち、これまでの経済活動は、主権に関する交渉とは全く別の領域で、いわば暫定措置として行われてきたに過ぎなかったものが、共同経済活動の延長線上に主権交渉が位置付けられるようになったのである。

経済そして地政学

まず経済活動については、2013年4月に安倍首相がロシアに訪問した際に民間経済代表団が同行したことに端を発し、15年5月ソチでの8項目計画に発展してきていた。今回それが、12の政府間文書、68の民間文書、合計80の協力文書に結実した。これは、双方の民間が裨益するべき共通利益と解すべきものである。
地政学的に問題に関しては、プーチン大統領が12月12日・16日の2度にわたりメディア・インタビューでは、アメリカの対ロ経済制裁への日本加担、ロシア艦船の太平洋への出口の問題を提起し、日本側にとりわけ対ロ関係の構築にあたっての対米との関係の在り方に配慮を求めた。しかし、逆に言えば、こういった発言はプーチン大統領が北方領土交渉に真剣に取り組んできたことを意味しているようにも思われる。

おわりに

首脳レベルではもちろん、領土交渉の成否は事務レベルにかかっているといっても過言ではない。なぜなら、とりわけ共同経済活動を交渉の一部として位置付けられた以上、これらの活動にかかる事務の度合いには計り知れないものがあるからである。
報告する東郷教授
質疑応答の様子
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