アメリカ対外関係史研究の現在

報告者 高原 秀介(本学外国語学部教授)
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
開催日時 2016年10月26日(水)15:00~18:00

発表概要

はじめに

今回の報告では、「アメリカ対外関係史」研究の歴史的系譜と現在について検討した。そもそも「アメリカ外交史」という呼称自体が、現在においてはいささか古めかしいものとなりつつある。

戦前のアメリカ対外関係史研究

20世紀前半においては、アメリカ社会の変化過程に着目した「革新主義史学」が主流をなしていた。例えばC・ビアードに代表されように、アメリカの動機の純粋さ、理想主義的な側面を擁護し、外交における民主的統制やプロセスを評価した。その一方で、反エリートの視点、アメリカ史に見られた様々な対立の側面に着目した。

戦後のアメリカ対外関係史研究

1945年から1965年前後

孤立主義を克服し、過剰な国際主義を戒める必要性を背景とした「現実主義アプローチ」が主流をなした。G・ケナンやH・モーゲンソーに見られるように、理想主義・道徳主義・法律万能主義・ユートピアニズムを批判し、手段と目的の間のバランス、合理的かつ現実的な政策を主張した。 また、L・ハーツやR・ホーフスタッターなど、アメリカの同質性や連続性、そして人間の非合理性に着目した「コンセンサス(保守主義)史学」が主流となり、革新主義が肯定的にとらえた人間や社会の進歩に対して懐疑的な立場をとった。

1965年前後から1975年前後

この時期には、W・ウィリアムズなどをはじめとする経済的利益追求の動機や資本主義の構造的要請に着目した「ニューレフト修正史学(ネオ・ビアーディスト)」が台頭した。

1975年前後から1980年代

一方で、ニューレフト修正史学は、経済決定論、アメリカ一国史への過剰傾斜、国際環境要因への軽視がみられ、この時期には「ポスト修正主義史学」が生まれ、複合的要因を総合的に検証する必要性を説いた。入江昭、E・ローゼンバーグ、M・ハントなどが国家間関係だけでなく、様々なアクターや思想の役割に着目する必要性を説いた。

1990年前後から現在

研究領域と方法論が拡大し、統合化が困難となっている。もっとも、「ポスト修正主義史学」のアプローチは存続し、ヘゲモニー国家としてのアメリカを世界史的観点から分析する「世界システム学派」とともに双璧をなしている。

おわりに

「アメリカ対外関係史」研究は、呼称としては「アメリカ外交史」→「アメリカ対外関係史」→「アメリカと世界」と変遷してきた。その過程で、学際的研究やグローバル・ヒストリーの影響を受けてきた。アメリカを「相対化」して分析する手法の広がりが、現在進展を見せつつある。この状況に伴って、むしろアメリカ研究自体の意味が改めて問われる結果となっていることを重く受け止める必要があろう。
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