気候変動ガバナンスにおける政策波及 :東京都排出量取引制度を事例として

報告者 井口 正彦(本学外国語学部 助教)
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
開催日時 2016年9月28日(水)16:30~18:00

発表概要

はじめに

東京都は、温室効果ガスの排出削減策として、都市レベルでは世界で初の試みであるキャップ・アンド・トレード型の排出取引制度を採用している。しかし、そもそも国レベルでの排出量取引制度が導入されていないにも関わらず、なぜ東京都が政府に先駆けて導入できたのか?このことを明らかにすることにより、今後の日本の気候変動政策の展望を考察する。

分析枠組み:政策波及のメカニズム

政策波及とは「政策が時系的・空間的に広がるプロセス」と定義でき、ある地域で実施された政策が他の地域・国で次々と模倣ないしは同様の政策が導入されていく過程に関する研究分野である。
政策波及を引き起こすメカニズムには主に①教訓導出(lesson-drawing)と②他者からの受け入れ強制(coercive)、に分類できる。東京都の場合には仮説として「東京都が先行する海外の排出取引量制度から政策学習をした結果、政策波及が起こった」と考えることが妥当であり、教訓導出が起こる国内要因として「経路依存」と「アクターの役割と制度的特徴」という観点から分析を行う。

東京都排出量取引制度への政策波及

東京都には先行するキャップ・アンド・トレード方式の事例として欧州排出権取引制度(EU-ETS)とアメリカの地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)が存在した。東京都の元政策担当者へのインタビューを通じて、このふたつの制度的枠組みのメリット・デメリットを踏まえた上で、東京都独自の状況に合わせて一部修正し、「適応」したことを明らかにした。

国内要因:東京都排出量取引制度の策定プロセス

東京都はこれまで国に先駆けて環境政策をリードしてきたという経路依存があり、国に先んじて総量削減義務を課すキャップ・アンド・トレード方式型の排出取引制度の導入を目指した。その策定プロセスはステークホルダー・ミーティングによるオープンなもので、東京都は2002年度から開始した報告書制度によって蓄積した十分な情報をもとに、反対する業界を説得し、また環境NGOからの支持も後押しとなり東京都排出取引制度の実現につながった。

展望:東京都を前例とする国内での波及はあり得るか?

埼玉県が同様のキャップ・アンド・トレード方式による排出量取引を導入したが、それ以上の広がりは見せていない。東京都のように、業務部門が大きな排出量を占めている大都市圏には適用できる可能性を秘めている。
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