「灰色収入」の推計-中国家計調査データによる検証-

報告者 岑智偉 (Zhiwei Cen)(本学経済学部教授)
開催場所 京都産業大学 5号館 ミーティングルーム1
開催日時 2016年7月27日(水)15:00~18:00

発表概要

世界問題研究所の第1回個人報告が岑智偉教授(経済学部)によって行われた。本報告は岑教授らの最近の共同研究成果(参考文献(1))として、マクロ経済モデルに基づく灰色収入(合法か非合法かを判断しにくい収入)を推計する方法について解説を行ったものである。
中国の所得格差の要因について様々な議論が展開されているが、中国国民経済研究所副所長王小魯氏は、中国の所得格差の要因は、経済発展の段階的なものではなく、「灰色収入」の存在といった制度的、構造的なものによると主張している(参考文献(2))。「灰色収入」が問題視されるのは、それが、実質的な意味において構造的に所得格差や所得分配の不平等を拡大する可能性がある点で、経済に大きな影響があると考えられるからである。しかしながら、王氏による灰色収入の推計方法には、十分な理論的説明がないことや調査方法に問題があることなど、様々な批判を受けている。
岑教授らの研究成果として、王氏の推計方法の問題点を理論的に修正した上、より一般的に灰色収入を推計できる方法を構築したことである。岑教授らは簡単な理論モデルに基づき、中国家計調査データ(CHIP2007)を用いて、統計的な分位法により各階層における灰色収入を推計した。その推計結果によると、2007年における中国都市部の最高所得階層である第10十分位の人は、灰色収入全体の38.45%を手にしていることがわかり、2007年における都市部の推計灰色総収入の規模は、GDPの41.0% に相当する10.9兆元(約163.2兆円)であることがわかった。ただし、この推計結果では観察できない理論モデルのパラメータを如何にして正確に計測するのかという課題があり、この点を考慮すると、実際の灰色収入は、推計された数値より低い値となる可能性がある。

参考文献

  1. 王小魯(2012)『灰色収入と発展のわな』中信出版社
  2. 岑智偉・青木芳将・土居潤子(2014)「「灰色収入」の推計-中国家計調査データによる検証」Faculty of Economics, Kyoto Sangyo University DISCUSSION PAPER SERIES 2014-2、pp.1-26(改訂版:2016年2月)。
PAGE TOP