所長挨拶

2013年

2013年は世界問題研究所にとって、喫緊の重要性をもつ年になる。

世界情勢が激変しており、それに対する日本の生き方が激変しており、それに応じた研究所の役割とその組織が激変しているからである。

日本という東アジアの一角に位置し、地政学的にそこから動くことのできない国にとって、世界情勢の激変は、中国の台頭によって集約される。2012年、尖閣諸島をめぐる対立によって中国は、国際秩序の現状を、交渉ではなく、力によって変更することを是とする国であることを示した。これが、一世紀の屈辱を乗り越え、毛沢東から鄧小平時代をへて今世界の超大国として米国に肩を並べんとする勢いを持った中国が、動き出した道である。

このことは日本をして、自らの安全保障を、責任ある平和主義に転換させるとともに、平成の漂流から今こそ脱し、中国の変容によって生じた東アジアの空白において、新しい文明の創造者としての役割を問わしめることとなった。

このような時代の激変の中で、世界問題研究所の役割もまた変わっていかねばならない。

すでに、2012年度において新たな領域主幹を中心とする新しい研究所についての絵図面が描かれた。その新しい絵図面に沿った形で、2015年の京都産業大学設立50周年を視野におきつつ、世界問題研究所は今、様々な角度から、現代世界と日本にとって最も本質的なテーマを掘り下げる活動を開始している。

先ず、激動する世界情勢とその中での新しい日本の役割を問うべく、「世界史の潮流と日本の国家目標」の探求を正面からとりあげる新しい研究プロジェクトが発足する。激動する世界史のなかでの日本のありかたを、いわばその『根』にあたる「哲学・宗教・文明論」、その『幹』にあたる「国家目標」、更にその『枝』にあたる「国際関係」の三つの層から連関分析するプロジェクトが三年をメドに発足する。

次に、この新研究プロジェクトを肉付けし、その内容を一層豊かにするために、安倍晋三内閣の下でいまかつてない機会の窓が開かれている北方領土問題をかかえる日ロ関係を、日ロのアイデンティティ形成の観点から歴史的に俯瞰する研究を、ロシアの研究者を交えて推進する。また近来、日本の安全保障と国家形成の在り方を考える上で喫緊の重要性を持ち始めている沖縄問題につき、かつてこの問題に全身全霊を傾けて取り組んだ若泉敬元世界問題研究所長の業績を振り返りつつ、研究する。

最後に、世界問題研究所を、世界のシンクタンク、研究者によって構成されるグローバルな知的共同体の欠かせない構成員たらしめるべく、重層的なネットワーク形成を実現する。すでにこの数年来、上海社会科学院との交流協定締結をはじめ、ソウル、台北、モスクワ、ワシントン、ライデン、更に、ハノイ、キャンベラ等との知的ネットワークづくりが始まっている。このような対外的なネットワーク形成を、グローカル・センターの設立を始めとする本学のその他のネットワークと連携し、また、様々な形での学生参加を求めつつ実現していくことも、これからの大きな課題である。

学内・学外の各位の一層の理解と支援を、心よりお願いするものである。

世界問題研究所長 東郷和彦
2013年4月1日

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