所長挨拶

2010年

京都産業大学建学の祖荒木俊馬先生は、1965年第一回の入学式告示において、「現在の一触即発ともいうべき国際的危機と不安定極まりなき国内情勢に直面して、祖国日本の将来を荷負うて立つ指導的若人を育成する最高教育機関」を創設すべく、ほとばしる情熱をもって語られた。
それから四十五年、世界はいかほどに平和となり、わが国国内はいかほどに安定し豊かとなったか。
荒木先生をして「一触即発」と言わしめた冷戦下の米ソ対立は解消されたが、世界はむしろ、民族の衝突と国際的なテロ行為がひろがる争乱の時代に入った。東アジアでは、中国台頭の意義をはかりかねる不安と期待の交錯する新しい流動化が進んでいる。片や、昭和の時代に富国平和を実現し冷戦の最大の勝利者の一人として躍り出たかに見えたわが国は、平成の二十年余、国家の進むべき目標を失い、海図なき航海の中で漂流してきた。
この新しい争乱と漂流の時代にあって、今こそ世界問題研究所は、建学の精神に立ち返り、大いなる危機感をもって時代の問題を探求し、わが国の進路を究明し、世界から学び世界に発信する、新しい知的イニシアティヴをとらねばならない。
はからずも今般世界問題研究所長の任につき、京都産業大学の同僚各位とともに、決意を新たにするものである。

世界問題研究所長 東郷 和彦
2010年4月

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