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人にやさしいテクノロジー

情報技術がひらく福祉・生活・教育

  • 情報理工学部 教授 中島 伸介 NAKAJIMA SHINSUKE


高度に発達した情報社会と、それを支えるテクノロジー。しかし、すべての人がその恩恵を享受しているわけではない。中島伸介教授は、「人にやさしい」「誰でも簡単に使える」情報技術を志向し、学生たちとともに、未来社会の創造に取り組む。

視覚障がい者をメタバースに いざな

――様々な分野のシステム開発を手掛けていらっしゃいますが、根底にある信条はどのようなものでしょう?

基本方針は、「こういうシステムがあれば便利なのになあ」というユーザーの気持ちをいかに汲み取るかです。誰でも簡単に使える便利なシステムをつくることを常に考えています。情報技術を便利でやさしく、さりげないものにしたいのです。

90年代後半から2000年前後、今では「ITバブル」とも呼ばれる頃の技術はユーザフレンドリーとは言えず、老人や子供が置いてきぼりになることが多かった。私は当時、「それは情報技術としてはダメなのでは?」と思っていました。それで、情報機器が苦手な人のため、一般人目線の研究を志向してきました。

――具体的にはどのような研究をされていますか?

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現在取り組んでいる研究の一つが「視覚障がい者のための※メタバース」です(上図1)。バーチャル・リアリティ(VR)は基本的に視覚の技術なので、視覚障がい者が入ることができません。私は、VR空間にもバリアフリーは絶対に必要だと考えていて、視覚障がい者でもVR空間内の状況を知覚できる仕組みを作ってみようと思い立ちました。

    ※メタバース(metaverse):仮想空間上でアバターを用いて交流や経済活動を行うデジタル環境を指す。近年、ゲームのみならず、教育やビジネス分野でも活用されている。

このシステムでは、視覚障がい者が、白杖の代わりにレーザビームを使ってVR空間を移動します。ビームが当たるのが硬いものだったら「カッカッカッ……」、水だったら「ザッザッザッ……」と、音や振動が伝わる。対象物の近くにいくと自動車の衝突センサーのように「カカカ……」と周期が短くなり、対象物距離が知覚できて、「この先には障害物がある」「こっちにはスペースがある」など、周りの状況を把握できる。白杖の機能を拡張させる感じですね。

――視覚障がい者のVR参加というのは、チャレンジングなテーマですね。

視覚障がい者の社会的交流をサポートする研究も行っています(上図2)。現実世界の、例えばパーティのような人の集まりに参加したとしても、目が見えないと周りの人がどこを向いているか分からない、だから話しかけづらい。

私たちが開発したシステムでは、視覚障がい者にヘッドマウントディスプレイ(HMD)を被ってもらって、アバター(分身)になってVRパーティ会場に入っていただく。HMDには方向センサーが付いているので(目は見えなくても)参加者の頭の向きや動きがわかります。そこで自分の前にいる誰かのアバターが「自分のほうを向いている」「自分に近づいている」などの情報を音声や振動で伝えて、性別、年代、名前なども補助的に音声で伝えれば、視覚障がい者でも、多人数が集う空間で、出会いや会話のきっかけを掴めるようになるのです。

――VRを使うことで、視覚障がい者の「行動範囲」が広がるわけですね。

会社員から研究者へ――大学で研究することの魅力

――情報科学を専門とするようになった経緯を教えてください。

学部時代の専門は燃焼工学で、主に内燃機関(エンジン)の研究をしていました。大学院を中退して、水環境のコンサルティング会社に入って水処理施設の開発に関わっていたのですが、会社の業務の一環としてITを勉強してこいと社長に言われて、情報系の大学院の博士後期課程に再入学したんです。そこで博士号を取りました。

こうした経験の中で気づいたのは、情報科学は他の自然科学とはアプローチが全く違うということ。

燃焼工学は現実に存在する自然現象を研究対象としますから、背後の原理や法則を解明することを目指します。一方、情報科学は新しく創っていく学問です。少し前まで無かった、スマホ、SNS、AIなんかがどんどん出てくる。つまり「未来しかない」。そうしたところに魅力を感じました。

――民間から転職されたわけですが、大学で研究する魅力はどこにありますか?

例えばビッグデータを用いた機械学習システムを開発する巨大IT企業はたくさんあるから、同じことを大学の研究者がやるには無理がある。けれど、大企業がなかなか気づかない将来的なニーズも確かにある。そうしたニーズに対応できる技術を開発するのが私の仕事だと思っています。それが結果として、未来を担ってゆく学生の教育や、企業の新しいシステム・製品の開発につながれば嬉しい。

それに加えて、やはり自由な発想が許されるってとこが大学の魅力ですね。私は学生時代にアメフトをやっていたのですが、研究者としてアメフトの戦略に関する支援システムの開発を手掛けたこともあります。大学ならではの自由度の高い研究といえるでしょうね。

ただし、情報科学は(誤解を恐れずに言えば)プログラムを書けば何でもできるので、あまり意味の無いことでも研究テーマにできてしまうという問題点もあります。「内容は面白いけど、いったい誰が使うんだろう?」というような研究が存在することも事実です。情報科学の研究者は、実際に社会で何が必要とされているのかを見定める倫理観も必要だと思っています。

学生のアイディアを形にする

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■A社の化粧品ポータル・サイトで、ユーザーが商品を星の数(最高7★)で評価しているとする。ただしその根拠は投稿レビュー(クチコミ文)を読まないと分からない。しかもレビュー文は膨大な数に上る。『コスメ・レビュー・スコアリング(仮称)』は、この大量のレビュー文に使われる表現の言葉をデータにして、化粧品を個別項目別に評価するシステムだ。「かなりしっとりする」「とても潤う」などの表現なら〈潤い〉に7点、「刺激が強い」「ひりひりする」なら〈低刺激〉に2点、という具合に、自動的に点数をはじき出してくれるので、自分好みの化粧品に簡単にたどり着くことができる。
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■「音響型ARによるランニング支援システム」は、GPSを使った競走用スマホ・アプリだ。ネットを通じて遠隔地の人と一緒に走る感覚が得られる。「相手が何メートル前にいる」とか「今抜いた、抜かれた」がナレーションや足音・息遣い音で分かるようになっている。モチベーションを維持でき、心拍数や走行ルートなども記録できるので走りの質も高められる。過去の自分の記録と競走したり、将来的にはプロランナーの記録をダウンロードして競走するといった使い方も可能だ。
――学生の発想が研究のヒントになることはありますか?

というより、学生発想のテーマがほとんどです。学生が持ってきたアイディアに対してアドバイスをしたり、複数のテーマを並べて「どれがいい?」って学生に選ばせたりして、一緒に育てていく感じですね。化粧品評価のアプリは女子学生のアイディアです。化粧品のことなんて私はわかりませんから。ランニング支援のアプリは元陸上部の学生が持ち込んできたアイディアに、私がアドバイスをして作ったものです。若い世代の常識と私の世代の常識はだいぶん違っていて、今20代の若者が生きている世界のことは、私にはわからないことだらけなので、色々教えてもらっています。

学部生は3年次後期から研究室に入るので、卒業までの1年半、修士までなら3年半の研究になります。ひとり1テーマ、研究室に15人いたら15のテーマがあり、全てを同時進行させていることになります。

そして、私は研究室の学生全員に学会発表を、大学院生なら国際会議での発表も課しています。

――学生が学会発表や論文執筆で学べることはすごく多いですね。

そういう機会を提供することが、一番わかりやすい、教員から学生へのプレゼントだと思っています。かけがえのない経験だし、何より自信につながりますから。


制作:京都産業大学研究機構研究推進センター
神山Research Profile製作チーム

聞き手:神谷俊郎(URA)
画像編集:新開絵梨佳

2025/11 発行
2026/02 ウェブ公開




情報理工学部 教授

Nakajima Shinsuke

神戸大学大学院博士後期課程中退。企業勤務を経て、京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了。(独)情報通信研究機構専攻研究員、奈良先端科学技術大学院大学助教等を経て、2008年に京都産業大学コンピュータ理工学部(当時名称)に准教授として着任、2015年より現職。同年9月からカリフォルニア大学サンタバーバラ校にVisiting Scholarとして1年間滞在。博士(情報学)。

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