設立趣旨・目的

ヒトをはじめとする生体を構成するもっとも重要な因子はタンパク質である。タンパク質は遺伝情報に従って合成されるが、それが正しい機能を果たすためには、生体内において常に合成、構造形成、そして分解のバランスに基づく恒常性が担保されていなくてはならない。それとともに、細胞内において個々のタンパク質が機能する場への輸送機構の解明、さらに機能発現のために他のタンパク質との相互作用の解明も必須である。
本研究所においては、このようなタンパク質の動態を研究することにより、その破綻としての種々の病態解明を目指し、創薬などへの基盤技術の確立を目指す。わが国におけるタンパク質研究の拠点としての地位を確固たるものとし、世界規模での社会貢献を果たすとともに、タンパク質研究を志す多くの学生に高度の教育を提供することを目的とする。

本研究所における「タンパク質動態」とは、次のような3つの視点を包含するものであり、それらを統合する観点から研究を展開する。すなわち、タンパク質の機能、構造、役割を、①時間軸、②空間軸、③組織化、という3つの視点から統合的に捉えるというものであり、この3つの視点のどれを欠いても、生体内、細胞内におけるタンパク質の役割を明らかにすることはできないと考える。

①時間軸から見たタンパク質の動態

すべてのタンパク質は、合成、成熟、移動、分解の時間軸に沿った存在であり、個々のタンパク質が時間とともにどのような変化を見せるかは、タンパク質動態研究の根幹である。生まれたばかりの、タンパク質になる前のポリペプチドにも機能があることが本研究所のグループの研究から明らかになり、また老化し変性したタンパク質がアルツハイマー病を始めとする神経変性疾患などを引き起こすこともよく知られるようになっている。

②空間軸から見たタンパク質の動態

膜を通過したり、膜に繋留されたり、別の細胞内区画に移ったりと、タンパク質はそれが正しく機能する場へと、細胞内を移動し、輸送されなければならない。職場と家庭とで違った顔をみせるように、どこへ輸送され、どのような環境にいるかによって、タンパク質は違った顔を見せ、仕事の種類も効率も著しく影響を受ける。このような空間的場が、タンパク質動態に及ぼす影響を研究することも大切な研究対象である。

③組織化から見たタンパク質の動態

タンパク質は決して単体で働くことはない。他のタンパク質または他の分子との相互作用が機能に必須である。機能的な集合体(謂わば家族)を作るために、どのパートナーを選択するかは本来の機能を獲得するために重要であり、さらに自分を分解するためにも他のタンパク質との相互作用が必要である。従来のタンパク質研究には、この組織化という観点を欠如しているものが多かったと言わざるを得ない。

これら3つの観点を統合するものとして「タンパク質動態研究所」の研究は推進されるが、具体的には、5人の専任研究者が、それぞれの分野と観点から研究を推進し、常時、情報交換を行うことによって、これら3つの視点の統合がはかられるよう協力をする。各研究テーマについては、それぞれの研究者の研究テーマの概説を参照されたい。
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