2021(令和3)年度 過去の研究会詳細

2021年(令和3)年度 第7回研究会

日時 2022(令和4)年1月19日(水)
16:00~18:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

吉田 和彦「印欧祖語に再建される基本語順およびゲルマン語に生じた語順変化」

ユーラシア大陸の広大な地域で現在使用されている印欧諸語は、紀元前4000年頃と推定される単一の印欧祖語から分岐して成立した。基本語順については、西側のアイルランド語ではVSO、東側のシンハラ語ではSOVである。印欧祖語は基本的にSOVに近いタイプであったと考えられるが、この立場に立つと西側のアイルランド語は典型的な主要部前置型、東側のシンハラ語は典型的な主要部後置型に移行したことになる。
この発表では、印欧祖語の基本語順がSOVであったことを支持する根拠をゲルマン語の立場から指摘するとともに、西側の諸言語に起こったOVからVOへの推移を、言語内的要因に基づいて説明することを試みる。

2021年(令和3)年度 第6回研究会

日時 2021(令和3)年12月22日(水)
15:00~17:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

鈴木 孝明「束縛現象に関する言語知識とその習得プロセス-日本語を母語とする初級英語学習者の場合-」

第二言語習得における照応を「生得的な言語知識」と「帰納的な学習」という2つの側面から探る。英語における再帰代名詞と代名詞は基本的に相補分布を成す(e.g., Billi hates himselfi/*j /himi*/j.)。
原理とパラメータのアプローチでは生得的な言語知識(e.g., 束縛原理)と経験の相互作用によりこのような現象に関する言語知識が有効になると仮定されているが、学習者が自ら法則性を見出し、一般化を行う帰納的
学習(e.g., プリエンプション)による習得も可能かもしれない。本研究では 158 名の初級英語学習者を対象に文法性判断課題を行い、単文における 1人称の再帰代名詞と代名詞の文法知識を探った。
その結果、再帰代名詞よりも代名詞に誤りが多く、特に非文法的に使われた代名詞を誤って文法的だと判断する傾向が高いことがわかった。母語獲得研究で頻繁に観察されるこの誤りは、語用論的な問題(原理 P)だとする
提案があるが、1人称の代名詞を使うことでこの要因を排除しようと試みた本研究においても観察されたことから、(少なくとも)本研究の学習者に関しては別の要因がかかわっていると考えられる。詳細な個人データ分
析を行うことで、転移の影響を分析し、さらに、束縛原理に従わない短距離代名詞を調査に加えることで、束縛現象の習得プロセスに関する考察を行う。

2021年(令和3)年度 第5回研究会

日時 2021(令和3)年11月24日(水)
15:00~17:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

島 憲男「構文の機能的役割:宮沢賢治のドイツ語訳テキストを手掛かりに」

 今回の発表では、これまで発表者が関心を持ってきたドイツ語構文のいくつかを取り上げ、当該構文がテキストの中でどの程度実際に使用され、どのような役割・効果を担っているかを調査した結果を報告する。
発表者は、これまで主にドイツ語を原典とするテキストを使ってドイツ語の構文分析を進めてきたが、今回は日本語からドイツ語に翻訳された宮沢賢治の複数の作品を用いて、これまでの研究成果が単に検証されただけではなく、新たな展開の可能性が提供されたことを示したい。さらに可能であれば、発表者が現在取り組んでいる「構文間の文法的ネットワーク」の中でそれぞれの構文をどのように位置付けることができるのか、その方向性も合わせて提示したいと考えている。                         
なお、取り上げる構文は、①結果構文(事態を引き起こす基底動詞と結果状態を表す結果句の相互作用によって名詞句の最終結果状態を確定させる構文)、②同族目的語構文(自動詞を基底動詞としつつも文中に同語源である対格名詞が生起する構文)、③オノマトペ(擬音・擬態表現)を有する表現を予定している。

2021年(令和3)年度 第4回研究会

日時 2021(令和3)年10月20日(水)
15:30~17:30
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

北上 光志「テクスト言語学の観点からのロシア語動詞と副動詞のアスペクトに関する通時的研究~19世紀から20世紀の文学作品を資料として~」

従来のアスペクトに関するテクスト研究は単語の意味に基づく分析方法が中心であり、あいまいな点が多い。本発表では客観的に形に現れた分析基準を提案して、ロシア語で書かれた19世紀から20世紀の文学作品で用いられている動詞と副動詞を分析し、アスペクトの使い分けが時代とともにどのように変化してきたかを明らかにする。
小説の中で発話文が出てくるところは物語の山場になる頻度が高く、また言語学的に「前景(foreground)」の要因を多く持つ (Kitajo (2015他))。このことに関連し、本発表は「発話文からの距離」を基準にして、動詞と副動詞のアスペクト(完了体、不完了体)分布が、前景とどのような位置関係になっているかを分析する。発話文からの距離を3つ(a)直接話法構文、b)直接話法構文の直前直後文、c)直接話法構文から2文以上離れた文)に分け、a)とb)が「前景に近い位置」、c)が「前景から遠い位置」と規定する。この3区分で用いられている動詞と副動詞の使用頻度をアスペクトの違い(完了体、不完了体)を考慮しながらカウントすることにより、200年間に書かれた小説をぶれることなく分析することができる。
分析資料は、19世紀から20世紀を50年ごとに4区分し、時代を代表する16人の作家の作品で使用されたすべての動詞と副動詞を分析する。分析した動詞は総数34503例(完了体:19179例、不完了体:15324例)、副動詞は総数6870例(完了体:2640例、不完了体:4230例)である。分析した結果をもとに、これまで明らかにされていなかったテクスト機能面でのアスペクトの歴史的変動の全貌を時代背景も踏まえてダイナミックに解明する。

2021年(令和3)年度 第3回研究会

日時 2021(令和3)年9月29日(水)
15:00~17:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

森 博達「『日本書紀』区分論と聖徳太子」

今年は聖徳太子薨去1400年の大遠忌に当たる。太子の事績は『日本書紀』(720年撰)に多く載せられている。今回の発表では、『日本書紀』区分論の視点から太子の事績の虚実に迫るとともに、推古朝の特質に言及したい。【参照】聖徳太子シンポジウム─聖徳太子信仰と伝承─(パネルディスカッション)- YouTube

  • 『日本書紀』30巻は漢文で書かれているが、表記の性格によって、α群・β群・巻30に三分される。α群は漢字の中国音で正格漢文によって綴られ、β群は漢字の日本音により和化漢文で書かれている。また編修の最終段階で、α群を中心に潤色や加筆が行われた。
  • 聖徳太子の初出記事は、α群巻21「崇峻紀」の蘇我物部戦争であるが、書紀区分論から見て編修の最終段階で書き加えられたものと推測される。
  • β群巻22「推古紀」の「憲法十七条」は倭習満載で、その倭習はβ群の倭習と共通する。飛鳥時代に原形があり、「推古紀」の述作者が潤色・修文したものと考えている。
  • 推古朝の統治は仏教が背景にあり、菩薩天子たる梁の武帝や昭明太子がロールモデルとなった。仏教文化は梁⇒百済⇒飛鳥というルートで導入された。推古朝では天文観測が行われ、史書の編纂にも着手した。太子は蘇我馬子と協力して天皇を補佐し、隋や高句麗に劣らない独立国家の建設を目指した。

2021年(令和3)年度 第2回研究会

日時 2021(令和3)年7月28日(水)
15:00~17:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

加野 まきみ「海を渡った日本語 コーパスで探ることばの変化」

私は、コーパスと呼ばれる大規模な言語データベースを使って、主に英語の語法・意味などを観察するという手法の研究を行っています。特に、借用語や新造語が英語の中でどのような変化を経て英語の語彙として定着していくのかに大変興味を持っています。今回は、長年調査を続けている日本語から英語に入った借用語の変化の過程についてお話ししたいと思います。

英語から日本語に入った「外来語」の数が膨大であることは、カタカナで表記する語の多さから容易に推測できますが、逆に日本語から英語に入って実際に使用される語はどれくらいあるのでしょうか?日本独特の伝統・文化を表すkimono, geisha, samurai、飲食の分野のsushi, tempura, sake、武道の分野のjudo, karateなど英語話者が認識する語彙は数多くありますが、近年ではビジネスやテクノロジー、またアニメの影響を受けた語もあり、英語辞書出版社のWord of the Year(いわゆる「流行語大賞」のようなもの)に選ばれることもあるほどです。

新しく英語に導入された語は、発音・綴りの変化、連語の形成、接頭辞や接尾辞の付与、品詞転換、比喩用法や意味変化などを経て、新しい意味や語法を獲得し、英語として生産性を持った語彙として受け入れられて行きます。日本語から英語に入った借用語がどのような変化の過程を経て英語の語彙として定着していくのかを、コーパスから抽出した最新の用例などを交えて論じたいと思います。

2021年(令和3)年度 第1回研究会

日時 2021(令和3)年6月23日(水)
15:30~17:00
場所 第2研究室棟会議室およびオンライン

発表者及びテーマ

梶 茂樹「アフリカ人の名前」

世界には言語は多いが、その多くは無文字言語である。語彙と文法の調査のあとテキスト分析も必要となるが、文学はあっても文字に書かれることはないので、調査者自身が文字化していく必要がある。今回は短いテキストの代表として人の名前の考察を行う。例は、コンゴのテンボ族、ウガンダのニョロ族など私が現地で調査してきたアフリカ諸族のものを用いる。そこでは無文字社会がいかに文字の問題に対処しているか、その一端を見ることができる。

人の個人名はその人を他の人から区別することを第一の目的とするが、同時に、その子供が生まれた時の家族や社会の状況を記録する媒体としても働く。テンボ族やニョロ族などアフリカの多くの地域では、子供が生まれた時点での親の最大の関心事がその子供の名前となって表れてくる。例えば、戦争が起こって大変だという場合は、戦争といった名前が子供につく。また近所に自分をねたんでいる人がいれば、ねたまないで欲しいというメッセージをその人に発するが、これを子供の名前の中に刻んでおく。こういったメッセージの交換は、夫婦間、親子間、兄弟間、隣人間など様々な人間関係に基づいて行われる。それはあたかもお互い手紙を書いているかのようである。名前はメッセージであり、それは様々な人間関係という観点から分析できるというのが私の結論である。

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