田中 立志

TANAKA TATSUSHI
理学部 数理科学科 教授
学位
博士(数理学)
専門分野
代数学

研究テーマ

多重ゼータ値、数論

高校生に向けた研究内容の紹介

写真は、世界的に名高いマックス・プランク数学研究所(ドイツ・ボン)内で、研究者のお友達に撮ってもらった一枚。所内で開かれたとある研究集会のtea breakの様子が写っています。お菓子をつまみ、コーヒーや紅茶やワインを飲みながら、おしゃべりしたり、壁に設置してある大きな黒板を使ったりして、数学の研究討論をしています。
私の研究は、数論、特に多重ゼータ値の代数的性質についてです。上記研究所に長期滞在した間に発見した根付き木写像と呼んでいる対象と多重ゼータ値論との関わりについての研究をしています。大学院生にも研究の一端を担ってもらうことがあります。

ゼータと木をテーマにした数学の基礎研究

田中研究室の主たるテーマは数論です。学部生の間は、リーマンのゼータ関数やベルヌーイ数を学ぶケースが多いですが、ほかにも初等整数論、超越数論、保型形式、数え上げ組合せ論などをテキスト(※)に沿って学ぶことがあります。⼤学院⽣になると、荒川恒男 & ⾦⼦昌信『多重ゼータ値⼊門』を読破した後で徐々に本格的な「研究」へとシフトしていきます。⽥中研究室で修⼠号を取得した⼈は2023年6⽉現在で4⼈います。それぞれ優れた研究成果を挙げてくれました(※)。
私自身の専らの研究テーマは多重ゼータ値の代数的理論です。リーマンゼータ値とは、リーマンゼータ関数の整数点での値のことで、正の整数のべき乗の逆数の無限和などのことを言います。1+1/2+1/3+1/4+1/5+…=∞、1+1/4+1/9+1/16+1/25+…=π^2/6、などです。このリーマンゼータ値を「多重化」と言われる一般化をしたものが多重ゼータ値です。かの有名なEuler(1707ー1783)も2重ゼータ値を研究していましたが、計算機が発達したのち、1990年頃から多重ゼータ値はとても盛んに調べられるようになりました。近年では、多重ゼータ値の研究は多様な広がりと奥深さを見せています。かく言う私も2017年ドイツに研究滞在している間に、多重ゼータ値と密接に関係する根付き木写像というものを新たに見つけました。学部生や大学院生のみなさんが多重ゼータ値や根付き木写像やその周辺分野に興味を抱き、その宝探しのような研究に参⼊してくれると嬉しく思います。

ゼミで過去に使用したテキスト
  • J.H. Silverman『A Friendly Introduction to Number Theory』
  • J.P. Serre『数論講義』
  • 荒川恒男、伊吹山知義、金子昌信『ベルヌーイ数とゼータ関数』
  • 成嶋弘『数え上げ組合せ論入門』
  • 塩川宇賢『無理数と超越数』
  • 小島定吉『離散構造』
  • 高木貞治『初等整数論講義』
  • Henrik Bachmann『Multiple zeta values and modular forms』
修士論文のタイトル
  • 『Wordの組み合わせ論的性質に関する研究』
  • 『双対公式導出問題とq-多重ゼータ値の積分表示について』
  • 『多重ゼータ値の山本積分の代数的解釈, およびt-多重L値の定義と代数的定式化』
  • 『多重ゼータ値の関係式の根付き木写像を用いた解釈と考察』

ゼミナール/研究室のテーマ

多重ゼータ値、数論

ゼータ値とはおよそ、整数のべき乗の逆数の無限和を指します。その研究はオイラーやリーマンにはじまり、今では整数論のみならず、代数・解析・幾何・数理物理など多彩な方面から研究されています。崇高な理論的美しさがたくさんちりばめられています。


※特別研究とは、4年間の学びをもとに各自が研究テーマを設定し、教員の指導を受けて研究を深め、卒業研究としてまとめるもので、理学部での4年間の集大成となる重要な授業です。

ゼミ/卒業研究の紹介

主に、数論(Number Theory)や数え上げ組合せ論(Enumerative Combinatorics)に関する文献を輪読しています。写真はゼミ合宿の様子です。
数論は数学の歴史の中でも最も古い分野の一つです。古代人はピタゴラス・トリプルという整数の三つ組(たとえば、3と4と5)を用いて「直角」を正確に作りました。また、素因数分解の難しさは「暗号」として現代の世の中にも広く応用されています。
数え上げ組合せ論は、文字通り、個数の数え方の理論です。数列を少し発展させた「母関数(ぼかんすう)」というものを用いるのが常套手段です。初等整数論の問題とも相俟って、個数を数えるのも意外と容易ではない(から面白い)のです。

プロフィール

九州は福岡県出身。30年過ごした九州のことばはあまり出ず、普段は標準語~エセ関西弁あたりを使います。囲碁は五段程度。学生時代には全日本学生囲碁十傑戦にも出場しました(ただし、初戦敗退)。数学はと言うと、高校時代は「月刊 大学への数学」「大学入試の抜け道数学」を愛読していました。大学時代は、数学にはあまり没頭せず、しかし就職したくない一心で大学院を目指しました。大学院時代は、周りのできる人たちに引け目を感じつつ、興味の赴くままに数学しました。ゼミ指導教員を三度変えましたが、博士課程では割と気合い入れて研究をした時期もあります。一泊二日や二泊三日で大学に泊まり込み、夜通し(というか気絶するまで)研究していた記憶があります。それだけやりがいのある研究ネタを指導教員の先生より頂いていました。近年、休日は我が子の遊びや習い事に付き合っています。

高校生へのメッセージ

・Today is the first day of the rest of your life. (Charles Dederich) 過去に引きずられすぎず、次に何をすべきかを考えよう。
・The important thing is not to stop questioning. Curiosity has its own reason for existing. (アインシュタイン) 大切なのは、疑問を持ち続けること。好奇心は、(その対象ではなく)それ自体に存在意義がある。
・為せば成る 為さねば成らぬ 何事も(上杉鷹山) 強い意志をもってやれば、必ず成就する。(時間はいくらかかってもいい。)