(法学部 服部ゼミ4年次 山本 実夢)
法学部 服部 達也 教授のゼミ(矯正社会学・少年法)では、非行少年や受刑者が抱える生きづらさに向き合い、社会復帰支援の課題とその重要性について学んでいます。
2026年6月19日、服部教授のゼミにおいて公開ゼミを開催しました。
今回の公開ゼミでは、『「あなたが嫌う非行少年」に、ワタシがしたこと。』(編著:岡田 行雄、知名健太郎定信/現代人文社)を題材に、非行少年の再犯防止や社会復帰支援には、逆境的な生育環境や生きづらさへの理解と、その解消に向けた支援が不可欠であることについて考えました。
当日は、熊本大学法学部の岡田 行雄 教授による基調講演に続き、京都弁護士会の安西 敦 弁護士、NPO法人 チェンジングライフ理事長の野田 詠氏 氏、そして本学法学部の服部 達也 教授による活動報告が行われました。その後、岡田教授と本学法学部 草鹿 晋一 教授をコーディネーターとして登壇者との座談会を実施し、研究者と実務家の双方の視点から社会復帰支援の課題と可能性について議論を深めました。
以下、当日の様子をその1、その2と2回に分けて紹介します。

熊本大学法学部 岡田 行雄 教授による基調講演

岡田教授は刑事政策と少年法を専門とし、「少年司法における科学主義」や「刑事政策学における人間科学の活用」を研究されています。
講演では、「少年法とその運用」「実践する研究者となった経緯」「非行少年の現実と真の課題」の3つのテーマについてお話しいただきました。
少年法は、本来「すべての非行少年に専門的な支援を行い、社会の担い手として育成すること」を目的としています。しかし実際には、少年被疑者への不適切な取り調べや、公的機関・付添人弁護士による対応上の問題、さらには保護されるべき少年の個人情報がSNS上で拡散される事例など、制度の趣旨に沿わない運用も見られるとの指摘がありました。
また、18歳で無期懲役刑を受けた場合、本来は仮釈放制度があるにもかかわらず、実際には58歳頃まで出所できないケースがあることも紹介されました。
岡田教授は、大学院時代の恩師である八尋弁護士や、少年事件の付添人として活動する安西弁護士との出会いを通じて、理論だけでなく実践の重要性を学びました。現在も熊本少年友の会でボランティア活動を続けながら研究を行っています。
実践を通して見えてきた非行少年の現実について、岡田教授は「非行は彼ら・彼女らのSOSである」と語りました。虐待などの被害経験を抱えながら、成功体験や相談相手に恵まれなかった子どもたちが、非行や闇バイトなどの違法行為へとつながってしまう現状があります。本来であれば少年院や支援機関がその役割を担うべきですが、十分に機能していない課題もあるとのことでした。
最後に、「人は痛みによって変わるのか」「厳罰化だけで更生は可能なのか」という問いを参加者に投げかけ、講演を締めくくられました。
法学部 服部 達也 教授による活動報告

元少年院長である服部教授からは、少年院における社会復帰支援の現状と課題について報告がありました。
政府は「誰一人取り残さない社会の実現-No One Left Behind-」を基本理念として掲げ、再犯防止のための社会復帰支援を法制度として整備しています。これに基づき、少年院では義務教育段階の在院者に対して教科教育が実施されており、在籍校や関係機関とも連携しながら学習支援が行われています。また、中学卒業や高校中退の在院者が多い実情を踏まえ、大学や通信制高校と連携した受験指導も実施されています。
職業指導では、「スキル」と「マインド」の育成を目的に、各種運転免許の取得支援や就労支援を行っています。さらに、キャリアコンサルタントやハローワーク職員、協力雇用主(※)による支援も提供されています。
※協力雇用主:犯罪や非行をした人を理解し、雇用を通じて社会復帰と更生を支援する民間事業主
福祉的支援としては、出院後に利用できる医療機関や福祉サービスとの調整、薬物・アルコール依存からの回復支援、自助グループへの見学や体験参加、精神保健福祉士・社会福祉士の配置など、幅広い支援が行われています。
服部教授は、福祉的支援を必要とする子どもたちが社会のセーフティーネットにつながれていないことが非行の背景にあると指摘しました。特に、発達障害を抱える在院者への支援や、仮退院後の受け入れ先の確保が課題となっています。少年院だけが社会復帰支援を行うのではなく、更生保護施設の充実や、自治体・公共職業安定所・警察など関係機関との連携強化の必要性を訴えました。
京都弁護士会 安西 敦 弁護士(福山大学教授)による報告

司法臨床心理学と少年法を専門とする安西弁護士は、「犯罪者は人か?」という問いから講演を始めました。
講演では、ある少年院在院者の事例が紹介されました。その少年は、家族と再び暮らすことを目標に努力を続けていましたが、仮退院を目前に家族から受け入れを拒否されたことで絶望し、少年院内で暴力行為に及んでしまいました。この事例を通じて安西弁護士は、参加者に「この少年をどう見るか」と問いかけました。
社会では「少年法が甘いから再犯を繰り返す」という見方が少なくありません。しかし、虐待を受けた子どもたちにとって、家出や窃盗は過酷な環境から逃れるための適応行動として始まることがあります。その後、不適応行動として固定化されることで、周囲から非難されるようになり、現在の非行行動と過去の被害経験とのつながりが見えにくくなってしまうと説明されました。
NPO法人チェンジングライフ 野田 詠氏 理事長による活動報告

野田理事長は、自立準備・自立援助ホーム「チェンジングライフ」を運営し、少年院や鑑別所の出所者、児童養護施設退所者などの自立支援に取り組んでいます。
同法人では、食事やレクリエーションを通じた居場所づくり、一時入居による衣食住の提供、就労支援、行政手続きへの同行などを実施しています。また、自立後も訪問相談や電話相談、課外活動を通じた継続的な支援を行っています。
野田理事長は、非行少年への厳罰化について、「一生刑務所で暮らすよりも、社会の一員として自立し、納税しながら生活する方がはるかに難しい」と語りました。
さらに、支援に必要なのは「無力であること」だと強調しました。支援を行った少年から、「私のことを簡単に励まさず、一緒にいてくれたのは野田さんだけだった」と言われた経験から、「支援者がどれほど努力しても、本人が変わりたいと思わなければ変わることはできない。そのため、一方的に励ますのではなく、傾聴し、ともに悩み続ける姿勢が重要である」と述べました。
「何かあったときに思い浮かぶ顔を増やすこと。それを大切に活動している」という言葉は、多くの参加者の印象に残りました。
その2では、登壇者との座談会の様子をお伝えします。