2026.09.01

「屋台」の数だけ、世界がある。町家オープンカレッジ開催報告

みなさんは「屋台」と聞くと、どんな風景やイメージが頭に浮かびますか? お祭りの露店や、夜の街角にぽっと灯る赤提灯を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、一見コンパクトなその「屋台」には、私たちの街や地域の見方を大きく変え、日常をちょっと面白くするたくさんの可能性が秘められています。
「自分の住む街をもっと面白くしたいけれど、どう関わればいいかわからない」。そんな風に、街との距離感に少し悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
でも、もっと軽やかに、自分の「好き」やちょっとしたアイデアを街に持ち出せるツールが「屋台」です。小さな屋台をひとつ開くこと。それは単に物を売るだけでなく、日常の街角に新しい賑わいや温かい居場所を生み出し、人と街を優しくつなぐ小さくて大きな第一歩になります。
先日、開催した町家オープンカレッジvol.24 「屋台の数だけ、世界がある。~屋台から広がる物語~」では、そんな屋台が持つ自由な可能性と、街との新しい関わり方のヒントが詰まった時間となりました。

様子その1

「屋台」をキーワードに、学生や行政関係者、建築、福祉、飲食店など様々な人が参加しました。

最初に登壇されたのは、屋台建築家でTAIYA代表の下寺 孝典氏。現在は大阪と福岡の2拠点を中心に、屋台のリサーチ・設計・製作を行っています。
下寺氏が屋台の世界に惹き込まれていった背景には、学生時代の深い葛藤と原体験がありました。学生時代、ゼミ活動で山の中に小屋を作成していた際、大学を訪れた子どもたちがそこに置いていった「こどもけいさつひみつきち」というフラッグを目にします。大人からあてがわれた場所ではなく、子どもたちが自ら秘密基地と名付けて使いこなす姿に、「場所は与えられるものではなく、自ら選び取るものだ」と強く衝撃を受けたそうです。
当時、建築を学ぶなかで「建物を建てて完結する」という建築教育の限界を感じていた下寺氏。卒業制作では「道」をテーマに隣同士の関係性やふるまいが街へ滲み出ていく模型を制作したものの、「理想の街のあり方をどう実現すればいいのか」「建築を学ぶ者として自分には何ができるのか」とモヤモヤする日々を過ごしました。
転機となったのは、大学院時代に敢行した東南アジア2ヶ月のバックパック旅でした。都市の隙間があればどこでも商売を始め、柔軟に空間を使いこなす東南アジアのたくましい街の風景に圧倒され、「自分が本当に興味があるのは屋台だ!」「建物を建てるのではなく、場が生まれる状況そのものをデザインしたい」と気づいたといいます。
バンコクの屋台生態系(作る・売る・使う・整備)を研究しながら、工場への弟子入りを経て、独立後はなんと約60台もの屋台を制作。現在は、福岡の屋台職人から技術や知恵を学びながら、図面や制作工程を記録し、失われつつある屋台文化を残す活動に取り組んでいます。その一方で、建築家やデザイナー、アーティストなどさまざまな分野のつくり手と協働し、現代の屋台のあり方を探りながら、公共施設や地域の場に屋台を設計・制作しています。「リサーチ」「アート」「デザイン」を行き来しながら、屋台を通して新しい公共の風景を生み出し続けています。

様子その3

下寺さんが作った屋台は、西陣の飲食店でも使われています。

続いて、実際に屋台を活用して場づくりを行う2人の実践者からお話を伺いました。
哲学対話やコミュニティスペース運営に携わる山本 和則氏は、「ひとりひとり違う人たちが共にいるためには?」という問いを掲げ活動しており、その活動の一環としてインド式屋台を出店しています。固定の場所で開くうちに自然と人が集まり、何より自分自身がもともと持っていたものが生かされ、「解放(アンロック)される感覚」を得たと語る姿が印象的でした。
また、京都産業大学大学院先端情報学研究科でデジタルファブリケーションを学ぶ岩田 快道さんは、屋台の出店だけではなく「京都屋台化計画」を推進中。夜間の空き店舗や駐車場を活用し、所有にとらわれず人と場所を結びつけるWebアプリの開発など、若者らしい柔軟な視点でクリーンで楽しい屋台の仕組みづくりに挑んでいます。

様子その4

様子その5

ゲストと実践者を交えたトークセッション。左から、下寺氏、山本氏、岩田さん。

トークセッションでは、京都におけるリアルな露店事情や天気・体力勝負といった泥臭い苦労話とともに、路地や隙間の多い京都の街と屋台の相性の良さが語られました。夜の「灯り」「香り」「レア感」に惹きつけられて人が集まる屋台は、誰にとっても街に関わるハードルを下げてくれる最高のきっかけになります。
最後に、登壇者の方々から、これから挑戦する人たちに向けて熱いメッセージが寄せられました。岩田さんが「都市の隙間がある京都だからこそ、クリーンで楽しい屋台事業を仕組みから作り上げたい」と語ると、山本氏も「柔軟な働き方であり、人と直接関われる喜びのある商い。ぜひ一緒にやりましょう!」と呼びかけました。さらに下寺氏からは「屋台は社会性を伴う活動であり、街で自分を表現する方法。気軽にまちと関わる場として楽しんでほしい」とのコメントがあり、街と関わる第一歩としての屋台の可能性が語られました。
参加者からも「車輪がついた屋台スタイルに挑戦したい」「若者向けに屋台で売ってみたい」など、前向きなアイデアがあふれ出ていた今回のイベント。
大きなビルを建てなくても、屋台という小さな一歩から街の風景も人の心も自由に変えていける 。夏の暑さにも負けない熱い情熱に触れ、参加された多くの方々が「何か始めてみたい!」と背中を押された、ワクワクの止まらない時間となりました。 

様子その7

様子その8

屋台に興味がある人から実際に使っている人までが一同に集まる時間になりました。