2026.07.22

【SHIFTトーク】「失敗が、キャリアになる」まで——ペン字をビジネスにした卒業生起業家・永井玲子さんが語る「いま、手で書くことの価値」

京都産業大学の卒業生起業家による講演会「SHIFTトーク」。今回は、THE DAY代表、株式会社pen.代表取締役の永井玲子さんを迎えました。会場には、キャリアに関心を持つ1年次生を中心に、学外からも参加者が集まりました。

外国語学部でインドネシア語を専攻していた学生時代、永井さんは、自分が起業するとは想像もしていなかったといいます。卒業後は食品メーカーに就職し、ルート営業を担当。「就職に失敗したくない。入社した会社で最後まで勤める」
そう考えて始まった社会人生活でした。
転機は、好きだった仕事を離れたことから始まります。その後、葬儀関連企業で営業職に就くと、ある日、「広報をやってみて」と声をかけられました。経験はありません。それでも、「やってみます」と引き受け、試行錯誤しながら情報を発信しました。やがてテレビにも取り上げられ、仕事は大きく動き始めます。

その経験を生かして次の会社へ移りましたが、コロナ禍によるフルリモート勤務などを経て、約1年で退職。それまで仕事に自信を持っていただけに、心が折れるような経験だったと振り返ります。

そんな時期に、永井さんの背中を押したのが、ペン習字でした。
練習した紙が、一枚ずつ積み重なっていく。少しずつ、字が変わっていく。先生から「はなまる」をもらう。大人になってからは、なかなか得られなかった小さな手応えが、失敗に対する永井さんの見方を変えていきました。

「字が変わるように、大人になっても変われる。」
この思いを軸に、2025年2月、永井さんはペン習字の事業で起業しました。女性起業家を対象としたビジネスプラン発表会「LED関西」では、多数の応募者からファイナリスト10人に選ばれ、オーディエンス賞を受賞。伝統的なペン習字を、ビジネスにも生かせる価値として捉え直しています。

広報を通じて永井さんが学んできたのは、「良い商品やサービスであれば、自然に売れるわけではない」という現実でした。また、自分で起業してみて、広報によって多くの関心を集めても、サービスの内容や支払方法が顧客のニーズに合っていなければ、申し込みにはつながらず、見込み客を取りこぼしてしまう。価値を伝えること。ビジネスとして成立する仕組みを整えること。その両方が必要だと語りました。

手書きには、その人らしさや思いを届ける力があります。営業先への手紙やグリーティングカード。その手書きの文字に、書き手の気持ちを乗せる。気持ちが価値となって心に響き、ビジネスが動き出します。AIによって、文章やプレゼンテーションを容易につくれる時代。だからこそ、手で書く。

対談では、学生から「ペン字の『ビジネスツール』としての価値を、企業にどのように理解してもらったのか」などの質問が寄せられました。永井さんは、ビジネスプランコンテストなどの機会を捉えて自分の思いをキーパーソンに伝え、少しずつ理解者を増やしてきた経験を紹介しました。

かつての同僚が、永井さんの仕事ぶりを覚えていて、後に新たな仕事の機会を運んでくれたことがありました。うまくいかないと感じる時も、その姿を見てくれている人がいる。目の前の仕事に向き合った時間が、何年もたってから、思いがけない形で次の機会へとつながることがあります。
永井さんは語ります。
「会社員時代から起業まで、別々のキャリアだと思っていました。でも、振り返ると、すべてが線でつながっていました」

そして、学生たちに問いかけます。「何か、やりたいことはありますか」
続けて、こう語りました。「やりたいことがある。それだけでも、すごいことです」

何かを始めるのに、最初から大きな強みは必要ありません。自分では強みと思っていない一面が、誰かにとって大きな価値になることもある。だからこそ、自分と向き合い、「自分のトリセツ(取扱説明書)」を知っておくことが大切なのだと伝えました。

成功したことも、うまくいかなかったことも。人生の山も、谷も。その一つひとつは、別々の出来事ではありません。歩き続け、振り返ったとき、それらはつながり、一つの物語として形を結ぶ。いくつもの線が重なり、意味を持つ文字になるように。

最後に、学生たちは、自分の名前を美しく書くワークに挑戦しました。永井さんから伝授されたのは、文字を整えて見せる小さなコツ。字には、一画ずつを整えるだけでなく、全体の印象を決めるルールがあります。コツを意識してペンを走らせると、見慣れたはずの名前が、少しずつ違って見えてきました。
ビジネスの場では、署名として記すこともある自分の名前。学生たちは、一画一画を確かめるように、もう一度、丁寧に書きました。
講演が終わるころ、永井さんが贈った言葉と、いつもより少し丁寧に書かれた文字が手元に残りました。

これまでの歩みを振り返りながら、一つひとつの経験を言葉にする永井さん
学生からの質問をきっかけに、会場で広がった対話のひととき
自分の名前とじっくり向き合い、丁寧にペンを走らせる参加者
小さなコツを意識すると、いつもの名前が少し違って見えてきます
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