京都産業大学経営学部では、理論のみならず実社会の第一線で活躍するリーダーから学ぶ「ゲストスピーカー講義」を多く開講しています。2026年7月、愛知県安城市議会議員の野場華世(のば はなよ)氏を講師に迎え、森口 文博ゼミナールの2、3年次生を対象とした特別講義が行われました。
野場氏は、楽天の営業職からNHKや日本経済新聞社の記者を経て、現在は地方自治の現場で奮闘されています。野場氏の波乱万丈な半生と「政治と経営の共通点」を語る熱いメッセージは、将来を模索する学生たちに強烈なインスピレーションを与えました。

記者から政治家へ:「生きている実感」を求めたキャリア
野場氏は、早稲田大学卒業後、楽天での勤務を経て、NHK記者として高知県へ赴任しました。そこでの経験を「ものすごい生きてる実感があった」と振り返ります。その後、日本経済新聞社での記者生活を経て、2023年の統一地方選挙で地元の安城市から出馬し、トップ当選を果たしました。
その道のりは決して平坦ではありませんでした。中学時代にバブル崩壊の影響で家業の経営難を経験し、その後は就職氷河期、治療法が確立していない難病との闘い、さらに最重度のアレルギーを抱えるお子さんを一人で育てながら政治活動に取り組むなど、多くの困難を乗り越えてこられました。野場氏は、「人はいつ死ぬかわからない。やりたいことは絶対先延ばしにしない方がよい」と、自身の経験に基づいた「覚悟」の重要性を説きました。
政治は「まちのデザイン」:経営学部で学ぶ意義
野場氏は、議員の仕事を「経営者と非常に似ている」と語りました。
「まちをどのようにデザインし、持続可能な未来をどうのように作るか」という視点は、経営学部の学生が学ぶ組織運営や戦略立案と深く通底しています。野場氏がマニフェストの7割をわずか3年で達成した背景には、記者時代に培った圧倒的な「好奇心」と「交渉力」がありました。
「パレーシアステース」としての覚悟:信念を貫く勇気
森口准教授は、哲学者ミシェル・フーコーの言葉を引用し、野場氏を「パレーシアステース(真実を語る人)」と定義しました。パレーシアとは「真実を語る」という意味であり、たとえ強い反発を受け、立場が不利になる可能性があっても、自らが信じる真実を社会に問いかける人を指します。
野場氏は、単に組織の論理に同調するのではなく、「市民の代弁者」としての独自の視点を大切にされてきました。組織の中での安定よりも「社会のより良い未来のために必要な真実を、勇気を出して語る」、この覚悟こそが、既存の枠組みを動かし、社会に変革をもたらす「政策起業家」の原動力となるのです。
代表的な事例として、森口准教授は、以下の事例を挙げ、学生に解説しました。
- 小倉昌男氏(ヤマト運輸創業者):既存の郵便制度や業界慣行に異議を唱えながら、「宅急便」という新たな物流サービスの必要性を訴え続けた人物。社会や利用者の利益を重視し、規制当局とも粘り強く議論した点でパレーシアステースである。
- 孫正義氏(ソフトバンク創業者):意見広告を通じて「通信料金はもっと安くできる」と社会に訴え、既存の業界秩序に挑戦した点でパレーシアステースである。
政策起業家(Policy Entrepreneur)とは
社会課題の解決や政策の実現のために、新しいアイデアを提案し、人々や組織を巻き込みながら政策変革を推進する人のこと。
学生へのメッセージ:「自分の人生の主人公であれ」
学生から「どうすれば強いメンタリティを保てるのか」という質問に対し、野場氏は独自の哲学を披露しました。
「迷ったとき、自分が『漫画の主人公』だったらどんなセリフを選び、どの道を選択するかを考える。主人公は絶対にずるい真似はしない。自分を裏切らない選択の方が、人生は面白くなる」
また、「助けて」と言える社会を作りたいという信念から、あえて自身の弱みも発信する野場氏の姿勢に、多くの学生が共感しました。

森口准教授のコメント
野場さんとは大学時代の同級生です。彼女の行動力と信念は当時から変わりません。経営学とは、単なる利益追求ではなく、いかに社会に価値を提供し、人を幸せにするかという学問でもあります。彼女の「地方自治の実践」を通じて、学生たちが自分の志を再確認する貴重な機会となりました。
学生の感想
- 自分の仲間を見つけるために、まず身近な人に対して自分の意見を発信することが大切だというお話が心に刺さりました。メンタル面や考え方についても多くの学びがありました。
- これまで敬遠していた政治に対して興味が湧きました。市議会議員の仕事に対するイメージも大きく変わり、誠実さや素直さを体現している方だと感じました。
- 「自分が漫画の主人公だったらどうするか」という考え方がとても印象的でした。自分自身に恥ずかしくない行動を心がけていきたいと思いました。
