経済学部の専門教育科目「アジア経済英語講義」(担当:イケダ マリア教授)は、国際的な視点からアジア経済の発展とその課題を英語で学ぶことを目的とした授業です。2026年6月9日(火)の講義において、インド電力省傘下のシンクタンク(Power Foundation of India)に所属する経済学者、ジャガナート・マリック博士を講師に迎えたオンライン特別講義が開催されました。講義には、日本、中国、韓国、イギリス、ドイツ、オランダ、チェコ、スロバキア出身の18名の学生が参加し、国際色豊かな学びの場となりました。本特別講義では、「エネルギー転換とマクロ経済」をテーマに、急成長するインド経済が直面する課題とその発展戦略について多角的な議論が展開されました。

講義の背景:アジアの経済開発と成長モデル
本講義ではこれまで、過去70年間のアジア経済の高成長を題材に、政府・市場・制度の役割を理論的に学んできました。特に、高い貯蓄と投資がインフラ整備を支え、持続的な経済成長を実現してきた点が重要なテーマです。近年では、中東地域の紛争などの外生的ショックにより、化石燃料の輸入に依存するインドの脆弱性が浮き彫りとなっています。世界第3位のエネルギー消費国であるインドにとって、エネルギー安全保障は調達先の多様化だけでは不十分であり、クリーンエネルギーへの転換を含めた 包括的な対応が求められています。今回の特別講義では、こうした理論を踏まえ、次の成長段階にある新興国、特にインドがどのように発展を実現できるのかを検討しました。
「Viksit Bharat 2047」とインドの国家ビジョン
講義の中では、モディ首相が掲げる「Viksit Bharat(開発されたインド)」が紹介されました。これは、独立100周年の2047年までにインドを先進国へと発展させるという国家目標であり、長期的な発展ビジョンです。政府、企業、市民の協働を通じて、持続的な成長と構造転換を実現することが求められています。
インドの台頭とエネルギートリレンマ
人口増加や都市化、デジタル化の進展を背景に、インド経済は世界経済において存在感を高めています。一方で、その成長を支えるエネルギーをめぐっては、安定供給・経済性・環境配慮をいかに両立させるかという「エネルギートリレンマ」への対応が大きな課題となっています。政府は再生可能エネルギーの導入拡大やEVの普及促進など、脱炭素化と成長の両立を目指した政策を進めています。これらの取り組みは、新たな産業構造の形成や雇用創出にもつながる重要な政策であり、多くの新興国にも共通する課題に対する示唆を与えています。
講義の核心:資金動員の重要性
マリック博士は、エネルギー転換の最大の課題として、長期・低コストの資金をいかに大規模に動員するかを挙げました。エネルギー政策は技術面だけでなく、金融や制度設計とも密接に関連しています。インドでは再生可能エネルギーの導入が進んでいるものの、ネットゼロ達成(温室効果ガス排出量と吸収量を実質ゼロにすること)には巨額の投資が必要です。そのため、低コストで実行可能な資金へのアクセス確保が不可欠です。政府と民間の連携による資金調達の仕組みが今後の鍵となります。
成長と環境の両立
講義後のディスカッションでは、電力需要が増加し、化石燃料の利用も2000年以降緩やかに増加している一方で、温室効果ガス排出強度が低下している理由について議論が行われました。再生可能エネルギーの拡大やエネルギー効率の改善により、経済成長と環境負荷の抑制が同時に進む可能性が示されました。特に、エネルギーミックスの転換、クリーンエネルギーの導入拡大、排出原単位の改善がその要因として指摘されました。この結果、エネルギー需要の増加と環境負荷の低減が同時に成立し得ることが示されました。
世界経済におけるアジアの重要性と学び
インドの事例を通じて、アジアの経済開発が今後の世界経済に大きな影響を与えることを示しました。特に、エネルギー転換と成長戦略の両立という課題は多くの新興国に共通しており、アジアは引き続き世界経済を牽引する重要な地域と位置づけられます。本特別講義を通じて、学生は理論と現実の政策課題を結びつけて理解する力を養うとともに、グローバルな視点から経済を考察する重要性を再認識しました。英語による講義と議論を通じて、専門的内容を国際的に発信する力を高める貴重な機会となりました。