2026.06.05

平和構築論Ⅰにて、長有紀枝氏(難民を助ける会会長・立教大学大学院社会デザイン研究科・立教大学社会学部教授)をお招きし、講演会を行いました!

2026年5月28日(木)、「平和構築論Ⅰ」(担当:クロス 京子教授)において、立教大学大学院社会デザイン研究科教授・難民を助ける会(AAR-Japan)会長の長(おさ) 有紀枝先生をお招きし、「紛争違法化の歴史と市民社会のかかわり~市民の犠牲を少なくするために」と題した講演会を開催しました。

(学生ライター 国際関係学部2年次 渡邉正治・山下真己)

今回のご講演では、長先生の紛争地域での実体験などをお伺いし、「紛争をコントロールするという発想」「市民社会による武力紛争への対応」「兵器の規制・軍縮と市民社会」「軍縮における市民社会の役割」「市民社会とその正統性をめぐる議論」をテーマに、国際紛争と市民社会のあり方から、世界の平和について考えました。

紛争コントロールには「完全に無くす」と「減らす」の2つの考え方があります。これらの考え方は国連憲章や多くの条約に見ることができますが、その多くが市民社会による取り組みの成果と言えます。本講演では、戦争を無くすために市民がとった、政府や兵器産業への対抗など、具体的なエピソードが扱われました。また、紛争犠牲者の保護並びに難民支援の実態、及び赤十字組織やNGOなどの支援団体の活動をもとに、戦争を減らすための活動が掘り下げられました。

その中で印象的だったのが、兵器使用の規制の根拠である国際人道法基本原則には「兵士しか殺さないこと」があるということです。しかし現状多くの民間人が犠牲になっているのは事実です。これに対し長先生は、民間人・軍人の両者が使用する施設の破壊(民間人の殺害)は正当化できるのかという現実的な問いを投げかけ、民間と軍事目的を分けることの難しさを語られました。実戦では、民間人の犠牲を避けることよりも敵を殺害することが優先されているという現実があるそうです。

長 有紀枝先生

核兵器廃絶に関しても市民社会の戦争を減らす取り組みが大きく影響しています。実際に市民社会の活動が国際司法裁判所(ICJ)を動かしました。核兵器の威嚇、または使用の国際法上の違法性に対するICJの勧告的意見が求められ、ICJは「原則違法」としながらも「例外的な場合は判断できない」との判断を下しました。これに対して先生は「玉虫色の判断」ではあるが、この勧告的意見の意義を指摘されました。

さらに、現在多くの紛争地域で使われている通常兵器に関しても言及されました。現在の戦場では、地雷やクラスター弾などの兵器に加え、負傷者のデータを収集して、いかに効率的な打撃を与えるかを計算された兵器が出回っています。レントゲンに映らない銃弾の使用などは、治療を困難にするために不必要な苦しみを兵士に与えます。また、戦闘中の一時的な負傷にとどまらず、一生の障害が残るといった人権問題があります。実際、肉体労働が多い発展途上国では、戦争で四肢が損傷を受けることで、生活に大きな支障をきたすケースが多いと言います。

講演会の様子

近年、AI技術の発展が進み、その技術により兵器も進化しています。従来の兵器である対人地雷やクラスター弾に加えて、近年では「自立型致死兵器システム(LAWS)」、別名キラーロボットと呼ばれる新しい兵器が問題視されています。LAWSが従来の兵器と異なる点は、人間が操作・介入しなくても、AIが自律的に判断を下せることです。そこで、戦闘員と一般市民の識別や、攻撃によって生じる犠牲の適切な判断が可能かどうか、また人間の生死をAIが決定してよいのか、その責任は誰が負うのかといった点が、大きな懸念事項となっています。こうした兵器の多様化により、兵器規制がさらに困難になる可能性があります。

今回の講演会では、戦争の実態の変化を知ることができました。AIが戦争にまで使われるようになり、人を殺すことはより簡単になりつつあります。しかし効率的に使えば必要のない犠牲を減らすこともできるかもしれません。AIは最近登場したばかりであり、世界の平和や安全保障の概念がどう変遷するのかは未知数です。AIが「人を殺しやすくするロボット」ではなく「無駄な犠牲を無くす盾」として活用される世界を作るために、机上の空論にならない条約や機関を整備していくことが重要だと考えました。

また、これまで私は「戦争をいかに防ぐか」という視点で学んできましたが、「戦争が起きている状況下でいかに被害を最小化するか」という問いは、新鮮かつ重要な視座を得られました。技術の急速な発展により、ドローンや自律型兵器など戦闘の様相が複雑化する現代において、従来の国際人道法の枠組みだけでは対応しきれない現実があることを痛感しました。戦争の抑止と並行して、戦時下における市民保護の議論を深めることの重要性を改めて認識した講演となりました。