2026.05.27

【経済学部】暮らしと観光が重なる町、伊根町が目指す持続可能な観光とは

経済学部の専門教育科目「社会デザイン特別講義」(担当:菅原 宏太 教授)では、経済学に関連する「ヒト・モノ・カネ・情報」の観点から社会課題に接近するデザイン手法を学修できる機会として、社会デザインを実践しているキーパーソンを講師として招き、取組みの経緯・苦労・成果など、また実践現場から考える日本の社会経済のあり方について、それぞれの視点からお話しを伺います。第3回の授業では、一般社団法人「海の京都DMO」伊根地域本部(伊根町観光協会)事務局長 吉田 晃彦 氏を講師にお迎えしました。舟屋で知られる伊根町が抱える観光課題や持続可能な観光を実現するための取り組みについてお話しいただきました。観光客と住民の双方をつなぐ立場だからこそ見える現状や課題について学ぶ貴重な機会となりました。

(学生ライター 経済学部1年次 森田 結衣)

吉田氏は、京都府与謝郡与謝野町の機屋で生まれ育ち、大学卒業後は旅行代理店での旅行手配や添乗業務、印刷会社での営業などの経験を積まれました。これらの経験を生かし、伊根町商工会の観光協会へ転職し、現在は海の京都DMO伊根地域本部の事務局長として活躍されています。
伊根町は京都府北部に位置し、伊根の舟屋や浦島神社で知られる人口約1800人の小さな町です。農業や漁業が盛んで、舟屋が立ち並ぶ伊根浦は「伊根浦重要伝統的建造物群保存地区」として国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
講義では、こうした伊根町で観光客と住民の間に生じる様々な課題や、持続可能な観光を目指した取り組みについてお話しいただきました。

伊根浦の観光は、港町での暮らしを身近に感じられることや、舟屋での宿泊体験、新鮮な海鮮料理などの魅力から、国内外から多くの観光客が訪れています。しかし、町の規模が小さいこともあり、繁忙期には受け入れ容量を超え、来訪者が満足する観光ができずにあふれかえってしまう「オーバーフロー」の状態になることがあります。観光客が集中すると、交通渋滞が起きたり、バスに乗りきれない人が出たり、居住区へのごみの不法投棄など、住民の生活に様々な影響が生じます。こうした状況が続いた結果、入り込み客数と消費額が最高値を更新した年には、住民の観光客への忌避感も過去最高を記録してしまいました。

吉田氏は、観光産業による集客は、地域の活性化や住民の心の豊かさを生み出すための「手段」であり、集客そのものが「目的」になり、オーバーフローを起こしてはいけないと考えていらっしゃいました。そのため、観光協会や行政の観光担当部署、海の京都DMOが一体となり、地域のため、住民のための観光政策を進めていく必要があると語られました。具体的な取り組みとして、海の京都DMOはイギリスの旅行会社と「伊根約束」を交わし、宿泊や食事に関するルールとして、伊根のレストランや体験コンテンツを使うこと、事前のマナー教育を徹底する仕組みを導入しています。これにより、訪れる側と迎え入れる側が互いに「また訪れたい」「また訪れてほしい」と思える関係作りを目指しています。また、大型連休には臨時駐車場の開設や、公共交通事業者によるバスの続車対応など、現場でのオーバーツーリズム対策も行われています。観光協会のホームページや町の中には注意書きが掲示され、観光客へのマナー啓発にも力を入れています。さらに、海の京都エリアの市町と連携し、車ではなく船で移動する「伊根航路」を実施するなど、広域での繁忙期の分散策にも取り組まれています。

伊根町の観光の魅力の裏側には、住民の暮らしを守りながら観光を続けていくための課題と、それに向き合う取り組みがあることが今回の講義で示されました。観光政策を地域のための手段として捉え、持続可能な形で進めていく重要性が強調されました。

講義を受講した学生からは、住民との合意形成や暮らしの守り方、観光客の消費に関することや、港町での地震や津波に対する質問などが寄せられ、教室は活発な雰囲気に包まれていました。
自分自身、観光地は収益を目的とし、より多くの人に訪れてもらいたいであろうという思い込みがありましたが、伊根町のように暮らしそのものが魅力となっている地域では、住民の暮らしを優先し、地域に貢献したいという姿勢で訪れることが大切だと気づかされました。