国際関係学部三田ゼミ(グローバル協働未来学ゼミ)は、外国籍住民の割合が高いことで知られる群馬県大泉町を訪れ、多文化共生の現場を学ぶフィールドワークを実施しました。
大泉町で多文化共生の現場を体験
人口約4万人のうち約20%が外国籍という大泉町は、全国でも有数の多文化共生地域として知られています。今回の訪問は、スウェーデンの移民政策を研究している学生が、日本における共生の事例として大泉町に関心を持ったことがきっかけとなり実現しました。
日本の移民政策の背景を理解する
移民というと外国から日本に来る人たちが注目されがちですが、日本はかつて貧しい時代に国策として多くの移民を北米や南米へ送り出してきました。戦後もブラジルやペルーなどへの移住が続き、むしろ「移民を送り出す国」としての歴史を持っています。その後、1980年代後半に日本で人手不足が深刻化し、1990年の入管法改正によって日系2世・3世などに就労制限のない「定住者」資格が認められ、南米の日系人を中心とする労働者の受け入れが進みました。
こうした中で大泉町は、富士重工業(現SUBARU)や当時操業していた三洋電機(現パナソニック)などの大規模工場が立地する工業都市として発展しました。労働力の確保が課題となる中で外国人労働者の受け入れが進み、現在の多文化的な地域社会が形成されました。
地域に根づく多文化共生の姿を観察
現地では、町の歴史や外国人住民の受け入れの経緯を学び、大泉町観光協会および日本定住資料館を訪れて移住の歴史と地域の変化を確認しました。また同施設周辺で開かれていたコミュニティ活動の様子を見学しました。ブラジル系住民が経営するレストランでは、日系ブラジル人の方から生活や仕事、地域社会との関わりについて直接話を伺いました。さらに、南米や東南アジアの物品が並ぶスーパーマーケットでは、屋外で販売されていたキャッサバ(マンディオカ)など、異なる食文化が地域の日常に自然に根付いている様子を目にしました。


観光協会の役割と地域の支援体制
観光協会では、外国人住民が地域で活躍できる環境づくりや、多文化共生を支える取り組みについてお話を伺いました。世界の料理や音楽を紹介する「活きな世界のグルメ横丁」などのイベントを主催するほか、日本の生活や制度を外国人住民に伝える仲介役として、地域社会を結ぶ重要な役割を果たしています。
今回の訪問が実現したのは、大泉町観光協会の齊藤恵梨子さんのご協力があってこそでした。観光協会は、地域の歴史や現状を理解しようとする学生や研究者など、目的を持って学びに訪れる人々を積極的に受け入れる体制を整えています。こうした受け入れの仕組みは、大泉町が国内外の訪問者を惹きつける力となっており、地域の魅力や多文化共生の価値を広く伝える基盤にもなっています。観光を通じた地域理解と国際的な対話の促進という面でも、観光協会の果たす役割は非常に大きいと感じました。
対話から生まれる学び
2日目には、日系ブラジル人の平野勇パウロさんから講話をいただきました。幼少期に日本へ渡り、異文化の中で生きてこられた方ならではの深みのあるお話で、学生たちは引き込まれるように耳を傾けていました。平野さんは一方的に語るのではなく、学生たちに質問を投げかけながら対話を重ね、互いに考え合う時間となりました。移民としての制約や不安定さを抱えながら懸命に生きる人々、そしてそれを支え、共に歩む地域の人々。その努力とつながりが、この町の温かさを形づくっていることを改めて感じました。

学生の声:共に生きる社会を考える
学生たちは今回のフィールドワークを通じて、教室で学んだ理論を現実の社会と照らし合わせながら、多文化共生の「理想」と「現実」の間にある課題を実感しました。共生とは単に共に存在することではなく、異なる文化や背景をもつ人々が互いを理解しようと努め、日常の中で協働することの積み重ねであると学びました。
ある学生は、地域に根付いた多文化共生の現場に触れ、「文化や言語の違いを超えて共に暮らす姿勢に強く感銘を受けた」と語ります。特に「自国の当たり前は他国では通用しない。わかるまで相手に根気よく伝えていく必要がある」という言葉が印象に残り、相手を理解しようとする姿勢と粘り強い対話の重要性を感じ取っていました。
また別の学生は、多くのブラジル出身の方々と交流する中で、家族を大切にする文化に強い印象を受けたと話します。「かつて日本人がブラジルへ渡り、現在は日系ブラジル人が日本で働くという歴史のめぐり合わせに興味を持った」と述べ、歴史の循環と共生の意味を考えるきっかけになったようです。さらに、海外出身者のマナーをめぐる課題にも触れ、「実際には知らないだけということも多い。批判ではなく対話を重ねることが共生の第一歩だ」と学びを語っていました。
スウェーデンの移民政策を研究する学生にとっても、日本社会の現場を自ら観察し、比較できたことが大きな成果となりました。多文化共生を単なる理念ではなく、現場の人々の努力と工夫によって支えられている現実として体感したことが、今後の研究や卒業論文の方向性にもつながっています。
また、本ゼミで重視している未来学(Futures Studies)の視点からも、この体験は大きな意義を持ちました。経済がただ成長を続け、労働力を増やすことだけでは持続可能な社会にはなりません。多様な価値観や文化を尊重しながら、より包摂的な社会を構想していくことの重要性を、学生たちは実践を通して学びました。
未来を他者とともに創る
今回のフィールドワークを通じて、学生たちは地域の現実を学ぶだけでなく、日本社会そのものが直面する課題にも目を向けました。少子高齢化が進むなかで、外国人労働者や移民の存在は社会を支える大切な力となっています。だからこそ、経済の仕組みや成長のあり方を問い直す必要があります。
経済成長を推し進めること自体は必要ですが、それだけを目的化すると、社会のどこかに歪みが生じ、長期的にはバランスを欠いた社会になるおそれがあります。日本社会が労働力を必要として外国人労働者や移民を受け入れているなかで、どのように共に暮らし、社会を調整し、支え合っていくかを考えることが極めて重要です。未来を他者と「ともに創る」という視点こそが、これからの時代に最も求められる姿勢だと思います。
グローバル化の時代は、モノや情報だけでなく、人も国境や文化的領域を頻繁に超えて移動します。だからこそ、さまざまな人々が当事者として未来社会を共に創っていくことの大切さを、今回の訪問を通じて改めて実感しました。