「国際協力実務論Ⅱ」公開講座 『国際協力のキャリアとは ― 人口はたったの約1万7千人?! パラオの現場から考える ―』
(学生ライター:国際関係学部4年次 上田 友津)
2025年12月25日、国際関係学部「国際協力実務論Ⅱ」において、JICAパラオ事務所で勤務されている黒住知代さんを講師として迎え、パラオからオンラインで公開講座が行われた。
人口約1万7千人という小さな島国パラオの現場から、国際協力を「仕事」として担うとはどのようなことか、そしてどのようにキャリアを形づくっていくのかについて、実務経験に基づいた話が共有された。講演では、学生時代から現在に至るキャリアの歩みをはじめ、JICAという組織の役割、パラオの歴史や社会の特徴、さらには現地で働く中で感じてきたやりがいや難しさについて、具体的な事例を交えながら紹介された。

学生時代から国際協力への関心
黒住さんは大学時代、岡山で農地保全をはじめとする環境分野について学ばれていた。国際協力を明確に進路として意識するようになったきっかけは、交換留学で2週間タイを訪れたことだという。この経験を通じて、海外で暮らす人々の生活や社会に触れ、開発途上国や国際的な課題への関心が高まった。その後、大学院へ進学し、研究留学として約7か月間フィリピン大学に滞在。フィリピンの棚田を対象に研究を進める中で、環境保全と地域社会、そして国際協力の現場が密接に結びついていることを実感し、国際協力の仕事を志すようになったと語られた。

JICAとは何か
JICA(国際協力機構)は、複数の援助関連組織を統合して、2003年に現在の形となった、日本の政府開発援助(ODA)の実施機関である。国内外に多くの拠点を持ち、人の派遣や受け入れ、資金・技術協力などを通じて、様々な国や地域で国際協力事業を展開している。
講演では、JICAの事業は大きく三つに分けられることが紹介された。日本から開発途上国へ人を派遣する事業(青年海外協力隊など)、開発途上国から日本へ人を受け入れる事業(研修や学位取得など)、そしてインフラ整備などを中心としたプロジェクト資金・機材の供与や貸与である。これらを組み合わせながら、各国の状況に応じた支援が行われている。
黒住さんは、こうした幅広い事業を担うJICAの特徴を、現地の課題に応じて柔軟に対応するある意味「何でも屋」のような組織と表現し、国際協力の現場では制度や役割にとらわれすぎず、調整力や対応力が求められると語られた。
黒住さんのJICAでのキャリア
黒住さんは2021年にJICAでの勤務を開始し、大学で専門としてきた環境分野を活かして、地球環境部森林・自然環境グループに所属した。ヨーロッパのバルカン地域や、アフリカのケニア、モザンビークなどを担当し、森林保全や森林火災防止に関するプロジェクトに携わった。
その後、JICA九州市民参加協力課に移動し、外国人材の受け入れ支援や多文化共生、自治体との連携事業など、国内を舞台とした協力業務を経験した。中でも、熊本県の自然災害からの復興を実証実験として、地方創生と国際協力を結びつける取り組みは、国際協力を海外に限らずとらえ直す先進的な事例として紹介された。

パラオでのJICAの取り組み
パラオ共和国は、面積約488平方キロメートル(屋久島とほぼ同規模)、人口約1万7千人という小さな島国である。京都産業大学の学生・教職員数と同程度の人口規模で、国民同士が顔なじみの関係を築く、いわば「顔の見える社会」であることが大きな特徴だ。
政治制度は大統領制を採用している一方で、伝統的なコミュニティのリーダーも重要な役割を果たしており、国際協力の現場においても、こうした伝統的リーダーとの丁寧な調整が欠かせない。主要産業は観光業で、労働人口の約半数はフィリピンなどから来た外国人労働者が占めており、パラオ人の多くは政府やその関連機関で働いている。
JICAパラオ事務所は1997年に設置され、現在は職員12名体制で運営されている。これまでに350人以上の協力隊員が派遣され、100人以上のパラオの人々が日本で研修を受けてきた。現在は、社会基盤整備、経済・社会インフラ、産業振興の三つを柱に、観光業支援やインフラ整備を重点的に行っている。
「日本・パラオ友好の橋」の建設やパラオ国際空港ターミナルビルの整備、コロール州リサイクルセンターやパラオ国際珊瑚礁センターの運営なども、JICAをはじめ、日本の民間企業やボランティアの協力のもと進められてきた。こうした取り組みは、単なる設備整備にとどまらず、小規模な社会において人と人の関係性を前提に進められる国際協力の在り方を象徴する事例として紹介された。


国際協力のキャリアについて
黒住さんは、パラオで働く中で、自身の発言や判断一つひとつがプロジェクト全体に大きな影響を与える責任の重さを実感していると語られた。人口規模の小さい社会では関係者同士の距離が近く、自身の発言や判断が与える影響の大きさを強く意識する場面が多いという。一方で、伝統的なルールや文化への理解、書類のやり取り一つにも慎重さが求められるなど、海外勤務ならではの難しさについても触れられた。
キャリア形成については、「希望と異なる配属であっても、できることが増えれば、将来的にやりたいことの幅が広がる」と述べ、仕事を通じて「手持ちの札を増やす」ことの大切さを強調された。国際協力への関わり方は、JICA職員に限らず、自治体や民間企業、大学など多様であり、キャリアの多くは偶然の積み重ねによって形作られていく。だからこそ、アンテナを高く張り、自らの可能性を狭めずに挑戦し続けてほしいというメッセージが学生に送られた。
なお、本講演について、授業担当の三田教授は、「近年、外務省やJICAの関係者が、非常に真剣にパラオという国と向き合って仕事をしていることを、現地を訪れるたびに強く感じている」と述べていた。その姿勢は、現地の人々や社会を尊重し、真摯に向き合う姿そのものであり、だからこそ「その生の姿をパラオだけで完結させるのではなく、教室にも持ち込み、学生と共有したかった」と、講師を招いた意図を語っていた。
受講生の感想
受講した学生からは、「JICAのさまざまな部署の話を聞くことができ、国際協力の仕事を具体的にイメージでき参考になった」「青年海外協力隊の印象が強かったが、『何でも屋』という言葉の通り、幅広い取り組みを行っていることを知り、視野が広がった」といった声が聞かれた。また、「これまでの授業でパラオについて学ぶことはあったが、現地に住んでいる方から直接話を聞くことで、社会や生活への理解がより深まった」といった感想が寄せられた。質疑応答では、JICAの事業内容やパラオの現状、現地での生活、黒住さん自身のキャリア形成などについて質問が相次ぎ、学生一人ひとりが国際協力を自分事として考えるきっかけとなる時間となった。
筆者の学びや気づき
私自身、国際関係学部の「国際キャリア開発リサーチのプログラム」でパラオを訪れた経験があり、黒住さんのお話にもあったように、観光業への依存や国外からの支援に支えられている現状を現地で実感してきた。街中には、日本や台湾の支援によって整備されたことを示す看板が数多くあり、JICA事務所をはじめ、国際珊瑚礁センターやリサイクルセンター、学校、政府機関など、さまざまな場所で日本の人々が重要な役割を担って働いている姿が印象に残っている。同時に、日本人の意見も真摯に耳を傾け、対話を重ねながら物事を進めていくパラオの人々の姿勢にも、深い印象を受けた。
今回の講演を通じて、国際協力とは単なる「支援」ではなく、相手国の歴史や文化、社会のあり方、そして将来像を踏まえながら、いずれ自立していくための道筋を共に考える仕事であることを、改めて実感した。また、キャリアは一直線に描けるものではなく、偶然や回り道を含めて形づくられていくものであり、その過程で何を学び、何を積み重ねていくかが重要なのだというメッセージは、進路に悩む学生にとっても大きな示唆になったように思う。本講演は、国際協力の現場のリアルを知ると同時に、私自身の将来やキャリアのあり方を考えるきっかけとなる貴重な機会であった。最後に、このような学びの機会を共有してくださった黒住知代さんに、心より感謝申し上げる。