2026.01.21

平和構築論Ⅱにて、大井綾子氏(独立行政法人国際協力機構(JICA)ガバナンス・平和構築部 平和構築室の室長)をお招きし、講演会を行いました!

2026年1月8日(木)、「平和構築論Ⅱ」(担当:クロス 京子教授)において、独立行政法人国際協力機構(JICA)ガバナンス・平和構築部 平和構築室の室長、大井綾子氏をお招きし、講演会「平和構築協力とキャリア」を実施しました。JICAによる平和構築の取り組みや平和構築の仕事についてお話いただきました。

(学生ライター 国際関係学部3年次 島袋 梨央)

大井 綾子氏

講演の前半、JICAの平和構築の取り組みについての紹介があり、後半に、平和構築活動の経験とやりがいなどについてお話しいただきました。

世界の状況

初めに「第二次世界大戦以降、世界は平和になっているのか」というテーマについて、世界の武力紛争の数が大幅に増えているという説明がありました。一時減っていた紛争は2015年頃から再び増加に転じました。背景には機能不全に陥る政府への不満、社会の格差・不平等・差別等といった構造的なものがあると言います。難民・国内避難民はこの10年で倍増したそうです。シリアで独裁政権が崩壊して難民が帰国し始めていることに加えて、パキスタンによるアフガニスタン難民の強制送還やスーダン内戦激化による南スーダン難民の帰国などが原因で、決して世界が平和になっているから減少したわけではない、と大井さんは強調していました。

こうした難民たちへの支援を巡っては、米国がトランプ政権下で援助を削減している影響がとても大きくなっているそうです。米国は世界最大の援助国でしたが、国際協力の実施機関であるUSAID(アメリカ国際開発庁)が解体され、事業が大幅に縮小されています。この影響で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は予算が2~3割減り、2万人いたスタッフを5000人削減し、難民キャンプでの水・食料配布を縮小したと言います。またアフリカ各地では保健のプログラムや人道援助がストップしているそうです。

JICAの役割

上記のように、平和構築におけるJICAの役割は人道支援や人材育成などです。人間の安全保障の考えに基づき、ODA(政府開発援助)による二国間支援として技術協力・有償資金協力・無償資金協力などを実施しています。平和構築支援として、恐怖と暴力のない平和で公正・公平で包摂的な社会を形成し、紛争の発生・再発などを抑止するための強靭な国や社会をつくることを目指しています。さらに当事国の市民が自分たちで紛争を抑止できる社会づくりを大切にされています。そのなかで以下三つの協力方針を掲げられました。

三つの協力方針

・協力方針1 紛争を発生・再発させない強靭な国・社会を作るための取り組み
地方行政機関が住民に包摂的なサービスを提供できるように、能力強化を支援しています。また、住民相互の信頼を回復するために共同での生活インフラ整備や生計向上などを支援します。

・協力方針2 人道機関、外交・安全保障等の平和活動アクターと連携
行政能力強化を通じて、受け入れ地域における住民と避難民が包摂的かつ平和的に共存ができる社会への移行を推進しています。最終的には、出身国・地域への安全かつ自発的な帰還のための環境整備を支援されています。

・協力方針3 地雷・不発弾の探査・除去、被害リスクの回避、被害者支援の推進
復興や開発を妨げる地雷・不発弾被害を減らし、被害者の社会参画の促進することを目的としています。また、長年対策を進めてきたカンボジアと協力し、被害国同士の学び合いを促進しています。

平和構築の仕事(JICA)

大井氏からは、これまでのキャリアをお話しいただきました。大井氏は高校生のころから国際協力に関心をもって来られましたが、大学卒業後に勤務されていた日本の民放テレビ局では、お金がかかる割に視聴率が取れないという理由で、国際協力について取材・報道する機会が非常に限られていたそうです。そんななか、日本でアフガニスタンの復興支援会議が開催されることになり、頼み込んで取材をしたことが転機になったそうです。テレビ局を退社後にイギリスに留学し、外務省の「平和構築人材育成事業」での研修後、東ティモールに派遣されました。その後、UNDPや在アフガニスタン日本国大使館勤務を経て、社会人採用でJICAに入構されました。

現在は平和構築室の室長という立場で、JICAの平和構築協力の統括をされています。さまざまな国際問題に取り組むために大切なことは、誰か一人が頑張るのではなく、それぞれがそれぞれの立場で関わって協力することだそうです。また仕事のやりがいと魅力について、紛争の影響を受けている地域で、現地の人々や第一線で働く人々の情熱に触れ、平和と復興のために、一緒に働くことが出来ることとお話されました。

国際協力・平和構築とキャリアとして、まずJICA職員を挙げ、教育、保健など草の根レベルから大規模なインフラ整備まで多様な分野で、相手国のニーズに合わせて支援していることを紹介していただきました。次に、技術協力専門家は、専門知識や技術を活かして途上国の技術移転や組織・制度改善など、現場に入り活動をしているそうです。そして、私たち学生に聞き馴染みのあるJICA海外協力隊は、現地の人とともに生活し、草の根レベルで途上国の課題解決に貢献していると聞きました。小学校教育や看護師といった多様な職種で、20歳以上で日本国籍をもつ学生にも応募資格があります。

JICA以外のキャリアについて

国連(PKO事務局)やUNHCRなど、100以上の国際機関が平和構築を含む各分野で活動しています。また多くのNGOでは各団体の目的・理念に基づいて、草の根レベルの活動を展開しています。さらに、開発コンサルティング企業は、インフラ・開発・教育などの専門性をもつプロフェッショナル集団であり、現場の最前線で実際に調査や活動を実施しています。民間企業も、ビジネスの分野で途上国が抱える課題解決や、SDGsへの取り組みを拡大しています。

これらの国際協力人材に求められる資質と能力について、大井さんは、「総合マネジメント力+コミュニケーション力」をベースとして、問題発見・調査分析力、援助関連の知識・経験に加え英語力が必要だとお話されました。さらに、平和構築人材には安全管理の意識・能力や、柔軟な対応力が求められるそうです。アメリカやヨーロッパ諸国の政策変更により、開発途上国やパートナー機関からの日本への期待が高まっています。そのような中で、日本の戦後復興や震災復興の経験は今日のさまざまな復興の場面において有効であり、平和構築へのさまざまな関わり方は、他では得難い経験ややりがいである、と話されました。

講演会の様子

講演を聞いて

アメリカやヨーロッパ諸国の動向にも左右される国際情勢と、何よりも個々の人間の安全保障に向き合ってきたJICA、そして大井氏の仕事への姿勢に感銘を受けました。紛争のない日本に暮らしていると、今この瞬間にも恐怖や命の危機に曝されている人びとが世界にいることをつい忘れてしまいそうです。ですが世界の状況を知り、人間一人ひとりが平等に享受すべき安全について考え続けることは、国際関係について学ぶ私たちが出来ることの一つではないでしょうか。また、JICAを始めとした開発援助機関に憧れる学生も多いと思います。今回の講演会でその存在が少し近くに感じられる機会になったのではないでしょうか。