2026.01.15

「お買い物とはどんな社会に一票を投じるかということ」-フェアトレードにおける生産者と消費者のつながりについての学び

国際関係学部の専門科目「国際貿易論Ⅱ」(担当:横山 史生教授)は、世界各国間の貿易の動向や仕組みについて、開発途上国の経済・社会の安定的成長を国際社会全体の課題とする立場ではどのような取り組みが行われているかに重点を置いて学ぶ科目であり、途上国の生産者が正当な対価を受け取り安定した生活を送れるよう配慮して行われる貿易取引であるフェアトレードについても学んでいます。2025年12月26日(金)の授業では、有限会社シサム工房副代表取締役・人見 とも子氏をゲスト講師としてお招きし、ゲスト講義「フェアトレードにおける生産者と消費者のつながり」が行われました。

(学生ライター 文化学部3年次 向井 優)


シサム工房は、京都に本社を置き、京阪神・東京に展開する8つの店舗およびオンラインストアを通して衣類、コーヒー、チョコレートなどのフェアトレード商品の輸入・販売を行なっていますが、インド、ネパール、フィリピンなどアジア各国の生産者団体と密接な協力関係を持っておられます。本講義は、フェアトレードがどのように実践されているのかを学び、途上国の生産者と先進国の私たち消費者とのつながりやその背景にある現状・課題を身近に感じる時間となりました。

講義冒頭、人見氏はいくつかの質問を提示されました。「今この瞬間服を着ている人」「昨日服を着ていた人」という問いには全員が手を挙げた一方で、「今着ている服を自分で作った人」「その服を誰がどのように作ったのか知っている人」という問いには、手が挙がりませんでした。その後、各自が着ている服のラベルで製造国を確認することによって、日本で消費されている衣類の大半が外国製からの輸入品であるものの、「どのような労働環境で作られたのか」「作り手の生活はどのようなものなのか」といった背景はラベルからは知り得ない、ということを認識しました。

フェアトレードは「公正な値段の支払い」だけではない

フェアトレードは、途上国の生産者が正当な対価を受け取り安定した生活を送れるよう配慮して行われる貿易であり、「つくる人(途上国など海外現地の生産者)→つなぐ人(現地NGO)→つなぐ人(日本のショップ・ブランド)→つかう人(日本の消費者)」という流れで成り立っています。商品の種類としてはコーヒーやチョコレートが代表的ですが、シサム工房では衣類のフェアトレードに力を入れ、インドやネパールの各地の生産者団体と密接に協力して衣類の企画・デザイン・発注・輸入・販売を行なっておられます。

人見氏は、そのようなパートナー団体の一つとして、インドの大都市であるムンバイのスラムに暮らす人々、特に女性たちを支援するために衣類の縫製・輸出を行なっているフェアトレードNGO「クリエイティブ・ハンディクラフト」を紹介されました。フェアトレード商品の衣類を実際に縫製している女性たちの働く現場や生活環境、彼女たちがどのような人生を送りどのような思いでミシンに向かっているのかなど、私たちがラベルを見るだけでは知り得なかった姿がスライドで示されました。

シサム工房HP(https://shop.sisam.jp/partner/creative-handicrafts/)掲載写真

クリエイティブ・ハンディクラフトでは、初めてミシンを使う女性たちが無償で受講できるレッスンを提供し、専門家やスタッフが技術面をサポートしています。また、仕事面だけでなく、インド社会全体のジェンダーの問題として弱い立場におかれている女性の生き方への支援にも力を入れており、特に性暴力への危機感を共有するコミュニティづくりに力を入れています。子どもたちへの性教育や女性たちへの護身術講習など、性犯罪の被害・加害を減らすことを目的としたプログラムも実施しているとのことでした。そのような活動のための資金は、フェアトレードによって得られる収益から出されているそうです。このお話を通して、フェアトレードは「公正な値段の支払い」だけではなく、人々が安心して暮らせる環境を整えるための仕組みでもあることが理解できました。

なお、人見氏は実際にインドで縫製された衣類の商品数点を教室のホワイトボードに展示してくださっていたので、講義終了後に実際に手に取ってみる学生もいました。

お買い物とはどんな社会に一票を投じるかということ

フェアトレード商品の販売価格は、通常のビジネスの方法による商品、たとえばファストファッションの衣類に比べると高いため、先進国の消費者が実際に購入するかどうかが重要です。講義では、私たち一人一人が「服を買う時の決め手」として、①価格、②デザイン・色など、③素材・機能、④環境に良いかどうか、⑤人権に配慮しているかの5項目をそれぞれどの程度重視するかを答える個人ワークが、前半・後半の2回、実施されました。その結果、人見氏の講義を受ける前には多くの学生が重要度を低く捉えていた④・⑤の項目が、受講後には大きく見直され、多くの学生がその重要性を認識するに至りました。フェアトレードについて深く学ぶことで、価格以外にも大切なことがあるという理解が深まるのだと感じました。人見氏は、「お買い物とは、どんな社会に一票を投じるかということである」と語られ、私たち消費者の意識と行動が国際社会の問題の解決に小さいながらもつながる可能性があるということに気づかせてくださいました。

横山教授作成資料

講義ではさらに、フェアトレードを広めるために「自分には何ができるのか」を考えるワークにも取り組みました。学生からは、「フェアトレードについて詳しく調べ、友人に伝える」「宣伝用のハンドブックを作成する」「自分がよく利用するショップなどでフェアトレード商品を扱ってもらうようはたらきかける」など、具体的な意見が挙がりました。このワークでは、人見氏が教室内を回って何人もの学生に意見を発表するよう声掛けを行なっておられたのが印象的でした。

人とつながること、伝えつづけること

フェアトレードには、認知度の低さ、商品の価格が高いことへの抵抗感、安価での大量生産・大量販売を行う大手企業(衣類の場合はファストファッション)との競争といった課題があるのが現状です。しかし、人見氏は「自分たちがどのような熱意を持っているのかを伝えつづけることで、そのメッセージを受け取ってくれるお客様とつながることができる」と述べ、フェアトレードにおける社会的なコミュニケーションの重要性と、社会的な理解を拡大するために努力を続ける姿勢を示されました。

今回の講義を通して私たちは、フェアトレードについて単に知識を得るだけでなく、フェアトレードが社会の中でどのような意味を持ちどのような課題を抱えているのかについて実際に思考を深め、それを行動へとつなげるきっかけをつかむことができました。

講義終了後、国際関係学部長室にて