
2025年12月2日(火)、「国際ジェンダー論Ⅱ」(担当:クロス 京子教授)において、株式会社ワコール勤務の稲森 千夏氏をお招きし、講演会「ジェンダー視点で働くということ」を実施しました。社会人3年目の稲森氏から、働く女性が抱える様々な「もやもや」についてお話しいただきました。
(学生ライター 国際関係学部3年次 勝部 采香)
稲森千夏氏は、京都産業大学国際関係学部の1期生で、現在は株式会社ワコールで勤務されています。稲森氏は在学中からジェンダーに関心があり、卒業研究では担当教授であるクロス京子教授のゼミで女性の社会進出の問題を日韓比較し、誰もが生きやすい社会について研究を行いました。そうした中で、就職活動では「頑張る女性に健やかな毎日を届けたい」という軸を持ち、女性の下着を長年製造販売する株式会社ワコールに就職されたそうです。学生時代とは違い、社会に出て働く中で、稲森氏は「ジェンダーを意識しない難しさ」を感じるようになりました。

働き始めて感じる女性の課題
稲森氏は現在、ワコールで営業職として量販店や専門店を担当しています。営業職は依然として男性比率が高く、若手の女性は「軽視される」「専門性を疑われる」といった場面に直面することがあるといいます。実際に、得意先との商談では年齢や性別によって力量を判断されることがあり、社会に出て初めて“ジェンダーが働き方に影響する現実”を痛感したそうです。
また、女性のキャリア形成において避けて通れないのが、妊娠・出産といったライフイベントとの両立です。稲森氏は、管理職登用への道が本格化する30代前半と妊娠適齢期が重なることで、キャリアを中断せざるを得ない女性が多い現状を指摘しました。育児休業制度は整いつつあるものの、休業が「キャリアの空白」とみなされる風潮や、産休・育休から復帰後の評価・配置への不安は依然として残っています。さらに、育児を支える側の社員に負担が集中しやすい点も、組織全体の課題として挙げられました。

ジェンダーを意識しない難しさ
稲森氏が繰り返し強調したのは、「働くことそのものがジェンダーを意識する経験になる」という点です。学生時代は、学内で男女差を強く意識する場面は多くありません。しかし社会に出ると、営業先での対応、キャリア設計の難しさ、家庭との両立など、あらゆる場面で“女性であること”が判断に影響する現実に直面します。
その一方で、ワコールには社員の挑戦を後押しする制度が多く存在します。希望部署に挑戦できる「社内ジョブチャレンジ」、異動前に半年間当該部署を体験できる「社内インターン」や副業制度など、性別に関わらずキャリアの選択肢を広げる取り組みが進んでいます。また、女性の身体データを長年蓄積してきた人間科学研究開発センターの存在は、女性の健康や快適性を追求する企業姿勢を象徴しています。
しかし、制度が整っているだけでは十分ではありません。依然として管理職に就く男性比率が高い傾向から、「ロールモデル」不足に伴う女性の将来像の少なさや、そもそも管理職を志望する女性の少なさにも問題があるといいます。キャリア育成の制度と現場のギャップを埋めるためには、社員一人ひとりが声を上げ、組織文化を変えていくことが求められると語りました。
学生へのメッセージ
最後に稲森氏は、これから社会に出る学生に向けて温かいメッセージを送りました。「大学で学んだジェンダーの視点は、どんな仕事にも活かせる」と強調し、違和感を覚えたときにその感覚を無視しないことの大切さを伝えました。社会にはまだ多くのジェンダー課題が残っていますが、問題を構造的に捉え、必要なときには自分自身が「環境を変える選択肢を持つ」ことが、自分らしい働き方につながると語りました。

質疑応答の時間には、数多くの質問が寄せられ、学生のジェンダーへの興味関心の高さが表れていました。講演を通して、社会におけるジェンダーギャップはまだ多く存在することを学び、「働く=ジェンダーを意識する」という新たな視点を得ることができました。
また、キャリアの軸を持つことの重要性にも触れられ、「自分は何を大切にしたいのか」を問い続ける姿勢が、就職活動だけでなく働き続ける上でも支えになることがわかりました。ジェンダーに関する学びは、視野を広げ、社会の仕組みを読み解く力を与えてくれるものであるとおっしゃった稲森氏の経験は、これから社会に踏み出す学生にとって、現実を知りつつも前向きにキャリアを描くヒントになりました。
