京都産業大学では、人権教育の取り組みや人権啓発を目的に、人権問題に関わる様々な事柄について、知り考える機会として、「人権教育啓発講演会」を年2回開催しています。
11月26日(水)に、立教大学大学院社会デザイン研究科特任准教授であり、一般社団法人UNLEARN理事・臨床心理士である西井 開氏を講師に迎え、「ハラスメントへの介入方法を学ぶ」と題して対面およびオンラインのハイブリッド形式で講演会を開催しました。
西井氏は、臨床社会学の視点から、男性のメンタルヘルスや暴力の問題を研究され、男性を対象とした脱暴力のための臨床活動や組織内で心理的安全を確保する文化づくりに取り組んでいらっしゃいます。
ハラスメントを防止する法整備は進んでいますが、依然として被害件数は多い状況です。制度だけではなく、どうすれば組織の中で心理的安全を保てる文化をつくれるのかが問われています。そのために、被害者の自衛ではなく、周囲の第三者による介入が重要だと言われています。本講演では、第三者介入というアプローチについて、豊富な知見と実践に基づき体系的にお話しいただきました。
ありふれた、社会的に何不自由なく過ごしてきた人たちが、様々な要因で暴力を振るってしまうことがあります。
ハラスメントや差別の問題に向き合ったとき、強い立場の人たちは、自分のアイデンティティが揺らぐような感覚に襲われ、時に、不安や恥、戸惑い、罪悪感、怒りといった感情が出てきて、ハラスメントや差別に反対する言説そのものに反発心を抱くことがあります。それは普遍的な現象のため、出てきた抵抗感は否定せず「普通のこと」と捉えればよく、出てきた感情を少し棚上げしながら相手の立場に立って聞いてもらいたいと、西井氏は話されました
ハラスメントを再考する
まずは、ハラスメントとは何かの再確認を行いました。
何をしたら・言ったら、ハラスメントになるのかという質問がよくありますが、ハラスメントの基準は曖昧で、ケースバイケースの判断が多くみられます。重要なのは、ハラスメントの内容(何をやったか・言ったか)だけではなく、その二者関係でどのようなパワーバランスがあるかをきちんと見ていくことです。第三者介入の話をしていく上でもこのパワーバランスを理解することは重要です。
暴力はパワーを背景に起こり、影響力を持つ強い立場の人が自分の意見を押し通し、弱い立場の人に抑圧的な態度をとることで、嫌なことを我慢させてしまう状況が生まれます。
差別とは何か?
社会はマジョリティ集団が得するように作られ、マイノリティ集団は様々な不利益を被ります。結果的に、この社会の構造に合わない人、うまく乗れない人が被る不利益も無視され、構造的差別が生じます。
「普通」という規範から逸脱した人を「他者化し」→「見下し」→「排除したり同化を迫る」というプロセスを経て「普通」はこういうものという規範が強化されます。
意図して行われるヘイトと異なり、マイクロアグレッション(小さい日常的な攻撃)は、多くの場合、加害者側が相手を貶めたことに気付かず、時に「良かれと思って」言われることもあるのが特徴です。ヘイトスピーチやハラスメントが直接的であり差別とみなされやすいですが、日々の小さな攻撃の積み重ねにより、心理的なストレスを蓄積させやすく深刻なメンタルヘルスの不調に至ることが指摘されています。マイクロアグレッションも差別のひとつです。
加害をした側の抵抗感
ハラスメントは、悪意を伴わない場合も多く、「指導」「教育」という文脈で、「良かれと思って」行われることがあります。それを「ハラスメント」と名指されること、ひいては「加害者」とラベリングされることは大きな認知的不協和をもたらし、抵抗感や反発心を抱くこととなります。
特に優秀、有能で、洗練された自己イメージを持っている知的職業に従事する人ほど、自分の偏見などが晒されることで「無知、愚か、あるいは未熟」と見られることを避けようとするため、なかなか問題を認めることができません。
大切なのは、自分の影響力を自覚し、相手を思い通り動かすためではなく、相手が気持ちよく就学・研究・仕事できるためにパワーを善用することが求められます。
ハラスメントや差別にどう介入したらいいのか?
第三者介入とは、ハラスメントや差別行為、いじめなどが起こった時、周囲で見ている人たちが現場に介入することを指します。
暴力行為とは、上下関係のある強い立場の人から弱い立場の人に繰り出されることが多く、被害者が抵抗できなかったり逃れたりすることが難しいケースが少なくありません。そのため第三者の存在は、暴力を防止する上で大きな役割を果たします。しかし、介入することが難しく感じられる構造の問題があります。
介入の障壁①問題性がわからない
②傍観者効果
③ショックで動けない
④自分も耐えてきたから
⑤加害者との関係性
⑥加害者の抵抗
⑦加害者(自分の組織)を守るため
⑧介入の方法がわからない
アクティブ・バイ・スタンダー(積極的介入者)になるためには、次の4つのポイントがあります。こうしたことを準備しておくことで、いざという時に冷静に行動できるようになります。
① 正確な知識を持っておく
何がハラスメント・差別になるのかを理解する。
② 介入の選択肢を持っておく
「RIGHT TO BE」というアメリカの人権団体がまとめる介入方法=5D
〈1〉Distract(気をそらす) 〈2〉Document(記録する)
〈3〉Delegate(助けを求める) 〈4〉Delay(後でフォローする)
〈5〉Direct(直接注意する)
③ 仲間をつくる
④ 練習する(ロールプレイやシミュレーション)
最後に
ハラスメントや差別行為を防ぐことは、被害者の安心・安全を守ることでもあり、また組織やコミュニティ全体の安心・安全を守ることにもつながります。
「差別や排除の問題は、個人では立ち向かえないように見えますが、実は半径5メートルでできることがたくさんあります。個人の小さな行為が積み重なり、ハラスメントや差別行為が起こりにくい風土にまで発展していけばよいと思います。」と締めくくられました。
ハラスメントへの介入は、「どうやって」「どの程度」介入していいのかわからないため、「もしかしてハラスメントでは?」と感じても方法がわからず「傍観者」となってしまうことが多いと思います。日ごろから、知識を持ち、こういうことができるのではと想像しておくことが大切だと改めて感じました。この講演会では、そのための知識や実践的な対応をわかりやすく解説いただき、参加者の理解を深める貴重な機会となりました。
人権センターでは、これからも人権教育啓発活動の一つとして講演会の取り組みを実施します。